力と力でせめぎ合う戦国時代。黒田官兵衛は並外れた智謀で世を動かした。彼の知略、奇策、説得術から現代のビジネスマンは何を学ぶべきか。官兵衛通の、東京電力取締役会長 數土文夫氏、企業再生請負人 冨山和彦氏、京都造形芸術大学教授 松平定知氏が語る。
人心掌握術の基本
【松平】官兵衛は、織田に謀反を起こした荒木村重に思いとどまるよう説得するため、単身村重の城である有岡城に向かいました。ところが、直接の上司の小寺政職が村重側についたため、説得どころか1年間も牢屋に入れられ、音信不通となってしまいます。しかし、栗山善助ら家臣は、官兵衛の安否すらわからない状況であるにもかかわらず、「連署起請文」を記して官兵衛に忠誠を誓いました。彼のこの人望をどのように考えますか。
【冨山】参謀には一般的に、血も涙もない嫌なヤツのようなイメージがあります。しかし、実際には、アルフレッド・マーシャルが「クールヘッド、ウオームハート」と言ったように、頭はクールでなければならないが、心は温かくないと人はついてきません。官兵衛は、それをよくわかっていたのでしょう。
たぶん彼は、自分の思いどおりに人が動いてくれない環境で育ったのです。成長するに従い、たとえば洞察力のような、人の心をつかむいろいろな能力を身につけていったのだと思います。会社でも社長や会長だからといって、周りが言うことを聞いてくれるわけではありません。みんな苦労しています。
【數土】チームビルディングというのは経営者に必要な能力のひとつですが、それができるためには、自分が社長になったら財務は誰、経理は誰に任せるというように、日ごろから部下のこと、それも長所をよく見ておく必要があります。人望も、一人ひとりの長所を正当に評価することで生まれるものなのです。官兵衛は20代前半で城主になってから、そういうことをずっとやっていたのでしょう。だから、「黒田二十四騎」のような精鋭部隊もつくれたし、有岡城に閉じ込められても、部下に救ってもらえることができたのです。