もっとも、彼は部下を見る目は確かでしたが、完璧な人物眼の持ち主だったというわけではありません。小寺政職と荒木村重に関しては、明らかに間違えました。しかし、早い時期に間違えるのは、失敗せずにずっといくよりむしろいいことなのです。実際、官兵衛の場合も、若いころの間違いがあとになってすごく役に立ってきます。

【松平】部下の長所を見るのが人心掌握術の基本だと言われましたが、本当にそのとおりです。官兵衛は家臣の母里太兵衛と栗山善助に「おまえら、親友になれ」と、無理やり義兄弟の契りを結ばせています。本人たちにしてみれば「そんなこと言われなくたって勝手にやるよ」というようなものでしょう。でも、官兵衛はこの2人を見ていて、将来自分を支える中核になる人物であるという確信があった、だからそんなおせっかいをした。

【數土】私は長く経営に携わるなかで、優秀な上司には、どうも2種類あるということに気づきました。ひとつは、頭がよくて部下の欠点を的確に見抜き指導できる人。もうひとつは、あまり頭がよくなくても、部下の長所を見つけて評価できる人です。たとえば、部下にいつも変わったことを言う人がいるとします。それが長所に見える上司は「あいつの考え方を実現する方法はないかな」と自分でもつぶやくし、周りにも言います。将来経営者になるのは、断然こちらのタイプです。逆に、部下の欠点ばかり見ている人は、だいたい途中でダメになってしまいますね。

【冨山】短所ばかり指摘する人は、とくに大きい会社に多いですね。

東京電力取締役会長 數土文夫●JFEホールディングス相談役。1941年生まれ。北海道大学工学部卒。64年川崎製鉄に入社。2001年川崎製鉄社長に就任。05年JFEホールディングス社長に就任。11年NHK経営委員会委員長、14年東京電力取締役会長。
企業再生請負人 冨山和彦●経営共創基盤(IGPI)CEO。1960年生まれ。85年東京大学法学部卒。92年スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストンコンサルティンググループを経て、2003年産業再生機構設立時にCOOに就任。07年4月にIGPIを設立、現在に至る。著書に『経営分析のリアル・ノウハウ』など。
京都造形芸術大学教授 松平定知●1944年生まれ。早稲田大学卒。69年にNHK入局。高知放送局を経て、東京アナウンス室勤。務理事待遇。2007年退局。『その時歴史が動いた』など数々の看板番組を担当。著書に『歴史を「本当に」動かした戦国武将』など。