「こんな不公平があっていいのか!」

そうやって01年6月、新しいヤフーBBのプランを発表すると、たった3カ月で100万件の応募をいただきました。が、そこからがまた茨の道。回線がつながらず、苦情が殺到したのです。ブロードバンド事業は、株価が100分の1に落ちた翌年に始めたもの。株主総会で罵倒されたばかりなのに、また非難されることになりました。

ヤフーの掲示板には僕のことを「詐欺師」「ペテン禿!」と呼んだ書き込みがたくさんありました。たまらなかった。しかも、そんな状況にもかかわらず、われわれが戦う相手は政府が筆頭株主の「日本一大きな会社」。メディアも、最大の広告主であるNTT側についています。

スタートしたばかりのネットワークが、夜中に止まってしまった。接続を直さなければならないのですが、直すべきネットワークセンターはNTTの局舎内にあったのです。エンジニアが夜中の2時頃飛んでいったら追い返されてきた。入館するには、事前にNTTの印鑑が必要だったのです。しかもその書類をもらうのに3日かかる。つまり、3日間はネットワークが止まったままになるということ。そんな我慢をお客さんにさせられるはずがありません。「こんな不公平があっていいのか。こんな手続きのために、ハンコのために、われわれを信じてつないでくれたお客さんのネットワークを止めるわけにいかん」。

僕はエンジニアを10人ぐらい引き連れてNTTの局舎に突入したのです。ガードマンにそれを阻止されましたが、半ば強行突破です。このとき、僕は本気で不法侵入で警察に捕まってもかまわないと思っていました。お客様の通信を守る。ネットワークを守る。そちらのほうが正義だと。

確かに印鑑はルールだけれど、そもそも不公平なルールだ。そんなものがあるためにお客様に迷惑がかかるのはおかしい。今から思えば無謀な行動に出たのも、そんな考えゆえだったと思います。

どうにか世界一安い、世界一速いブロードバンドを構築できました。サービス開始以来、加入者はうなぎのぼりでした。NTTはもともと、そんな安い値段にできるわけがないと言っていたけれど、われわれの参入により、同じ値段に下げた。こうして競争が起きることで市場が活気づきました。結果、多くの人々により快適なインターネット環境を提供することができるようになったのです。