アイデアがあっても始められない理由

今後展開が期待されるサービスのひとつは、医療機関との直接の連携だ。例えば、スニップによって薬の効き目や副作用が違うということがわかってきている。遺伝子データをクラウド化すれば、どこの薬局でも最適な薬を提供できる。遺伝子データを各種医療サービスの中心に置き、医療機関とのBtoBで収益を上げることは可能だろう。これは、経営陣に研究者が多いジーンクエストが目指すシナリオだ。しかし、医療関係者の協力が必要という意味では、実現のハードルは低くない。

もし、すでにヘルスケア事業を展開しているのであれば、そのサービスとの相乗効果を狙うのも手だ。運動や食生活などについて、ユーザーに適切なアドバイスをする過程で、自社商品の購入につなげることもできる。これは前ページの表にあるエバージーンの構想であり、親会社のヘルスケア事業との融和を狙っている。ヤフーはユーザーとの接点が多いというメリットを生かし、より広いライフスタイルにおける提案も考えているようだ。

このほか、ユーザーのSNSコミュニティやゲームへの機能提供のなかで、遺伝子関連のビジネスモデルを構築することもできるだろう。これはソーシャルゲームでノウハウを培ってきたDeNAの得意分野だ。

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今後広がる可能性のある「遺伝子関連ビジネス」

このように、遺伝子解析サービスにはさまざまなビジネスモデルが考えられる(図参照)。しかし、「3歩進んでは2歩下がる」(エバージーン・秋田正倫代表取締役)というように、各社は今後、どのような戦略で挑めばいいのか苦慮している面もある。それは、サービス実現にあたっては、法律や倫理、社会道徳などに注意を払う必要があり、それを踏み越えると、販売中止命令を受けた23アンド・ミーの二の舞いとなりかねないからだ。

そこで、業界内外から、セキュリティ関連も含めた統一ルールをつくるように求める声が上がっている。しかし今年初めに開かれた経済産業省の研究会では、法的規制が先送りとなった。法的規制を議論するには、もう少し世間の関心と理解が深まるのを待つ必要がありそうだ。

このように、これまで存在しなかった分野では、何か事件が起きなければ、規制の整備を求める議論は盛り上がらないのが常だが、その事件は、遺伝子ビジネスに致命的な打撃を与えるかもしれない。そこに現在の業界のジレンマがある。