僕はこんなふうにイメージしているんです
まず、ビジネスパーソンが世界を愉しんでいない状態というのは、極端に言えば一つの企業で働いている人たちが勝手に壁を作って、その壁の中の人間関係に翻弄されたり、様々な葛藤やストレスを感じたりしながら働いている状態です。
一方で世界を愉しんでいる状態ではその壁がなくなって、外の世界にいるいろんな人たちのことが分かり、そのことによって自分や自社のこともよく分かっている――そんな世界で自分に合ったいちばんいい仕事を社内外で創造できれば、多くの人たちがいまよりも生き生きと働けるはずです。
「キャリアの偶発性理論」という概念があるのですが、1人のキャリアはその言葉通り偶然に見つかるものです。でも、そのためには日ごろから価値観をきちんと持って、外の世界に対して自分をオープンにしている必要がある。世界に対して壁を作らずに働くことは、そうした偶発的なキャリアに備えるためにこそ重要です。
社員の能力にお金を払う日本
いまの時代に働く個人にとっていちばん危ないのは、10年20年と安定志向で勤めた後で会社が傾いてリストラというパターンですよね。だからこそオープンマインドで視野を広く持ち、会社の外にいっても仕事を愉しくできる人であり続けないといけない。その意識さえ持っていれば、会社や上司に求められている社内だけの期待品質で満足せずに、世界に通用するレベルで仕事を完遂してやろう、というくらいな気持ちで働けるし、企業の側もそうした人を採用することによって社内が活性化するでしょう。そうした雰囲気が当たり前であるような社会を実現したい、というのがJIN-Gの経営理念です。
そして、そのためにまず変わっていくべきは、日本の企業人事であると僕は思っています。人事の改革が組織の変革につながり、ついには世の中の仕組みの変革につながっていく。その動きを作り出す存在でありたい。「人事・人材開発にイノベーションを起こす」というわけです。
僕は早稲田大学の研究機関で研究員もしているのですが、最近、そこでイギリスの商工会議所の専務理事を交えたシンポジウムがありました。そのとき彼女の言葉で印象的だったことがあります。
いわく、イギリスでのHRの定義は「タレント・プール・デベロップメント」、つまりは「人材のプールを成長させること」だと言います。日本の場合は「ペイロール」、お金を払うことやルールを守らせることが人事の役割になってしまっている、と。日本ではまだまだ人材育成といっても全員が一律で同じ教育を受けることが主流で、社員一人ひとりのタレントを人事部が把握し、パフォーマンスをいかに上げていくかというテーマになかなか目が向いていないですね。当然、日本の人事部は今後、そのような視点を持っていく必要があるでしょう。
日本の人事部がそうなったのは、経済を支えてきた製造業が社員に長く勤めてもらい、技術を習熟してもらったほうが良い事業だったことも理由の一つだと思いますが、さらに言えば、日本は社員の能力に対してお金を払う職能主義の考え方が主流だったからですよね。欧米は職務主義なので、仕事に対してお金を払う。制度設計の根本思想が異なっていたわけです。よって日本では様々な部署をローテーションさせてゼネラリストを育て、欧米では、同じ職務のもとで会社を変えることでキャリアデザインしていく人が多い。
これはそれぞれ社会の背景が異なるため、どちらが良い、という問題では本来ないはずです。例えば欧米では歴史的に人種差別という社会問題もあり、人に対してではなく仕事に対してお金を支払う仕組みが発達してきたという一面がある。よく人事コンサルタントが外資系企業の話を受け売りして、「職務主義にしないとダメだ」なんて言っていますが、その会社の業務に何が合っているかはケースバイケースでしょう。欧米の働き方を無条件に素晴らしいと言うのではなく、それぞれの会社の文化や目指す方向性を本当に理解して提案できる人事部を増やすことが、日本の働き方を変えていくポイントだと僕は考えています。