一にも二にも提案力に尽きる
では、サッポロの営業マンたちは、ヱビスの歴史をどのように販売に繋げているのだろうか。
千葉、埼玉、東京、茨城、栃木、群馬、長野、新潟の各生活協同組合の事業連合であるコープネット事業連合。サッポロビール広域流通本部で同事業連合を担当する伊藤寿俊(31歳)は、学生時代スキーに熱中。スキー場へ行く資金稼ぎのバイトで「サッポロ黒ラベル」と出合い、サッポロビールのファンになったという。
「昨年末から、ハレの日と呼ばれる祭事などのタイミングで、高単価商材がお客様に支持されるようになっています。ずっと景気が悪かったので、お客様は節約疲れをなさっています。お祝いの日ぐらいちょっと贅沢をしてもいいんじゃないかという心理が広がっているのだと思います」(伊藤)
格好の追い風が吹いてきたわけだが、ではハレの日をどう掴むのか。
「年初から夏の最盛期にかけて、プレミアムビールにとって最大のポイントになるのが父の日、土用の丑、お盆という3つのハレの日ですが、こと土用の丑に限っては、うなぎとヱビスの親和性の高さをバイヤーさんにご理解いただいて、弊社だけで催事をやらせていただきます」(同)
なかなか斬新なこの組み合わせを、誰もが当然のように受け入れそうだと思わせる源泉は、ほかならぬ“ヱビスの歴史”だと伊藤は言う。
「1971年にヱビスが復活したとき、われわれの先輩たちは徹底的に和食屋さんに営業をかけていきました。そうした昔からの積み重ねが、お客様の潜在意識の中に『和食にはヱビス』という組み合わせを浸透させてきたのだと思います」
バイヤー側はどう見るのか。同事業連合の佐藤裕之バイヤー(46歳)は、
「土用の丑になぜヱビスかといいますと、パッケージなんです。要するに鯛を抱えたヱビス様の、あのラベルですね。つまりヱビスは、和にピッタリという印象が一番強い。今年で3年目になりますが、私は自信を持って、土用の丑にはヱビスを使っています」
しかし伊藤は、決してヱビスの歴史の上にあぐらをかいているわけではない。佐藤によれば、伊藤の良さは一にも二にもその提案力に尽きるという。
「毎月持参する提案書が非常にシンプルでわかりやすく、今月売りたいものが明確。月間の計画が一目でわかる書き方なのです」
実は伊藤は、以前宣伝部にいてメディアが出してくる提案書を精査する立場にいた。「『この人の話ってすごいな』とパパッと感じるポイントがどこかを、肌で何となく感じていました。佐藤さんも多くの営業マンから1日何件も提案をもらうから疲れると思いますし、各社が出してくる過去のデータはだいたい似たようなものですから、よほど特筆すべきものしか付けません」。