鍵穴にぴったりはまる鍵を見つける

タンパク質の形や役割を基につくった、薬の候補となる低分子化合物が、体の中にあるターゲットタンパク質に対してぴったりはまるかどうかを調べていきます。何故タンパク質をターゲットにするかというと、病気を持っている臓器にあるタンパク質の機能を制御することが治療につながるからなんです(もちろん化合物の中には核酸(DNA・DNAの情報によりタンパク質をつくるRNA)、脂質等などその他の体の中にもともとあるタンパク質以外の分子をターゲットにしたものもあります)。タンパク質が鍵穴で、低分子化合物が鍵。ガチャッと扉が開く分子模型のデザインを見つけ出す作業をします。私たちはこれを、化合物をデザインするといいます。

この化合物をデザインする時に気をつけなければならないことがいくつかあります。ターゲット以外の鍵穴にはまってはいけないのです。マスターキーのように、意図しない鍵穴にはまって鍵を開けてしまうということは副作用を起こしてしまう可能性を意味します。

治療の対象になっている病気とは関係のない他の臓器のタンパク質の鍵穴にはまってしまうために、いろんな副作用を引き起こすこともあれば、化合物のデザインによっては、臓器が受け付けないこともあります。また、ターゲットのタンパク質そのものがいろいろな臓器に発現している場合も予想外の副作用がでる可能性があるので要注意です。他にも、化合物がちゃんと血液に吸収されて、鍵穴に到着するまで分解されないかなども調べなくてはいけません。

人間の体には、外から入ってきた低分子化合物や異物を排出する働きがあります。そもそも吸収されなかったり、すぐに分解されてしまったり、吐き気を催すような反応を引き起こしたりと。タンパク質に作用して病気の進行を抑える薬の候補としてデザインされている化合物でも異物と認識されることが当然あるわけです。それをどうかいくぐって鍵穴に到達させるかが肝なんです。それを可能にするデザインの化合物を見つけていかないといけないから、薬ができる確率は低い。この薬のタネを見つける段階で数年はかかります。