企業は計2兆円の削減効果

では毎月どのくらい残業しているのか。

一般労働者の平均は14.5時間となっているが、30代は仕事の責任と負担が大きく他の世代に比べても残業時間は長いはずだ。

総務省の労働力調査(2012年)によると、週20時間以上も残業している30~39歳は20%もいる。月間で80時間以上になる。

また、転職サイト「Vorkers」を運営するヴォーカーズが約1万8000人の回答をもとにサラリーマンの残業時間に関する調査(2013年6月以降)を発表している。それによると、31~39歳の月間平均残業時間は50時間前後で推移している。

50時間で計算した場合の31歳の月間残業代は、11万6900円。35歳は14万1100円。39歳は16万9350円になる。つまり残業代がなくなればこれだけの収入が減ることになる。

年収換算では、以下の金額が消えてなくなることになる。

31歳 140万2800円
35歳 169万3200円
39歳 203万2200円

これだけの収入が減れば、私たちの暮らしは当然苦しくなるだろう。

一方、経営側にとっては大幅な人件費の削減につながる。前出の毎月勤労統計調査の一般労働者の所定内賃金が約30万円、月間平均残業時間14時間で計算すると1人当たりの年間残業代は40万6350円。これに経済界が要求する全労働者の10%である500万人を乗じると、全体で年間2兆円以上の削減効果が期待できる。

今年の春闘は安倍政権の賃上げ要請もあって昨年に比べて1127円アップの6217円と久々に賃上げ率2%を超えた(従業員300人以上。労働組合の連合集計)。だが、残業代の削減は仮に1万円の賃上げでも追いつくものではない。

加えて、現在、政府は30%台半ばの法人税を29%台まで、約5%を引き下げる方向で調整している。税率を1%下げると税収が5000億円近く減るという。5%引き下げると企業にとっては2兆円強のコスト削減効果が生まれる。

別に企業の税制優遇を非難するわけではないが、法人税を削減し、それに匹敵する残業代まで削減することになると、“会社が栄えて社員滅ぶ”ではないが、しわ寄せを受けるサラリーマンは踏んだり蹴ったりということになってしまう。

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