地球温暖化問題において、石炭火力発電はCO2排出量の大きさから新増設を反対されることが多い。石炭火力発電「悪者」説に対して、筆者は3つの理由から異を唱える。

 

エネルギー問題を考えるための「3つのE」

地球温暖化問題の深刻化とともに、日本国内では、石炭火力発電に対する風当たりが強まっている。発電電力量当たりの二酸化炭素(CO2)排出量が多いことをとらえて、短絡的に石炭火力を「悪者」扱いし、その新増設に反対するばかりか、極端な場合には、その撤去さえ求める論調が目立ちつつある。

確かに石炭火力の発電電力量当たりのCO2排出量は大きい。各種発電方式の建設、燃料の採掘・輸送・精製、運転、保守のすべてを含めてキロワットアワー当たりCO2排出量を算出すると中小水力が11グラム、地熱が15グラム、原子力が22グラム、風力が29グラム、太陽光が53グラム、LNG(液化天然ガス)火力(複合)が519グラム、LNG火力が608グラム、石油火力が742グラム、石炭火力が975グラムとなる(2003年現在)。

しかし、そうであるからといって、石炭火力を「悪者」扱いするのは正しいだろうか。答えは「否」である。

まず、石炭火力「悪者」説は、石炭火力がもつ経済面やエネルギーセキュリティ面での優位性を等閑視している点で、一面的である。もし、国内において、一般供給用および自家用の石炭火力発電の規模が抑制されることになれば、化学工業や鉄鋼業をはじめとして、日本の多くの基幹産業が国際競争力を失うことになるだろう。また、石炭に関しては、供給源が原油のように特定地域に集中しておらず、そのうえ輸入量の約40%が、日本企業によって開発・生産された「自主石炭」で占められている事実を見落としてはならない。つまり、石炭は、石油や天然ガスにはない経済面やエネルギーセキュリティ面での優位性を有しているのである。石炭火力「悪者」説は、エネルギー問題を考える場合に念頭におくべき3つのEのうち、エコノミーとエネルギーセキュリティを等閑視したものであり、一面的であるとのそしりを免れない。

ただし、ここで強調すべき論点は、むしろ別のところにある。それは、石炭火力「悪者」説が、3つのEのうちの残る1つのE、すなわち肝心の環境(Environment)問題に関しても、重大なミスリーディングをもたらしかねない点である。

この点に関して指摘すべき第一の事実は、地球環境問題はあくまで地球大で解決しなければ意味がないことである。