福田康夫前首相は、日本のCO2排出量を50年までに60~80%減らすという内容の「福田ビジョン」を提示した(05年時点での日本では、CO2排出量が温室効果ガス排出量の95%を占める)。このビジョンは、現在でも、政府の環境政策立案に大きな影響力を及ぼしているが、ここで忘れてはならない点は、日本の温室効果ガス排出量(CO2換算値、以下同様)は13.7億トン(07年度速報値)であり、世界全体の温室効果ガス排出量266.9億トン(05年)の5%程度を占めるに過ぎないことである。50年までかけて日本のCO2排出量を60~80%(8億~11億トン)減らしたところで、それだけでは、地球温暖化問題はとうてい解決しない。地球環境問題を解決するためには、CO2排出量を地球的規模で削減しなければならないのであり、それを進めるうえで、世界最高クラスの石炭火力発電の熱効率など、日本の技術力の出番は大きいのである。
指摘すべき第二の事実は、石炭火力発電は世界の主流を占める発電方式であり、たとえ日本でだけ石炭火力を縮小しても、国際的な石炭火力依存が変わらない限り、地球環境問題の解決策とはならないことである。
図1は、IEA(国際エネルギー機関)のデータにもとづき、04年における主要国と世界の発電電力量の電源別構成比を見たものである。この図からわかるように、石炭火力のウエートは、日本では27.2%であるのに対して、中国では77.7%、インドでは69.1%、アメリカでは50.1%に達する。発電面で再生可能エネルギーの使用が進んでいるといわれるドイツにおいてさえ、石炭火力のウエートは50.0%に及ぶ。世界全体の発電電力量の電源別構成比においても、39.6%を占める石炭は、19.5%の天然ガス、16.5%の水力、15.6%の原子力、6.7%の石油火力などを圧倒している。世界の発電の主流を占めるのはあくまで石炭火力なのであり、当面、その状況が変わることはないのである。
世界最高水準の熱効率を誇る日本の石炭火力
指摘すべき第3の事実は、日本の石炭火力の熱効率は世界最高水準にあり、その技術を国際移転すれば、すぐにでもCO2排出量を大幅に削減することができることである。
国際的に見て中心的な電源である石炭火力発電の熱効率に関して、日本は、ドイツ・アメリカ・中国・インドを凌ぎ、北欧諸国と並んで世界トップクラスの実績をあげている。したがって、日本の石炭火力発電所でのベストプラクティス(最も効率的な発電方式)を諸外国に普及すれば、それだけで、世界のCO2排出量は大幅に減少することになる。
図2は、IEAのデータにもとづいて資源エネルギー庁が試算したものである。この図からわかるように、日本の石炭火力発電のベストプラクティスを普及するだけで、1年間に中国で4億6300万トン、アメリカで3億7400万トン、インドで1億6200万トン、これら3国合計でちょうど10億トンもCO2排出量を削減することができる(03年実績値基準)。