退却は進軍より勇気と決断力がいる

1997年、「JスカイB」にソニー、フジテレビも資本参加することに。(AP/AFLO=写真)

すでにいくつか売却した事例をあげましたが、それら以外にも、あおぞら銀行(旧日本債券信用銀行)に出資していたものを、アメリカの投資ファンドに売却しました。「孫はいたずらに投資した」。そんな批判の声も聞こえてきました。

パートナーに申し訳ない気持ちはありましたが、売却を決めた最大の理由は、資金調達でした。主戦場と決めたブロードバンドでの戦いには軍資金が欠かせません。兵器だって買わなければいけない。兵隊も集めなければいけないのです。

退却は、進軍より勇気がいるものです。決断力も必要です。みんな追いかけると虻蜂取らずになる。ソフトバンクは、デジタル情報革命のために創業したものです。それがすべての根源であり、中心軸。そういう意味では、冬の寒さを耐え忍んで戦っていくためには葉も枝も落とさなければなりません。

同じように売却したのはスカパーの株です。チャンネル数でナンバーワンとなりましたが、やはりブロードバンド事業に専念するため、02年、日本テレビに売却しました。

そのほか、ヤフージャパン以外の会社はほとんど売りました。ブロードバンドが本業だということで、これに一点集中したということであります。

小宮コンサルタンツ代表取締役 小宮一慶氏が解説

小宮一慶氏

孫さんは事業を始めた若い頃から、資金不足に何度も直面し、お金で苦労してきている。そのぶん、資金に対する感性が高く、お金の回し方や使い方がうまい一面がある。だから「選択と集中」を実行するのに長けていて、一番成功する確率の高いところに資源を集中できる。

このケースでは結果として銀行から借り入れできなかったこともよかったが、自社事業の中で構造を組み替えられたところが成功のポイントだ。

●正解【B】――主戦場と決めたブロードバンドで戦うため、枝葉は落とすしかない

※本記事は2010年9月29日に開催された「ソフトバンクアカデミア」での孫正義氏の特別講演をもとに構成されております。設問文等で一部補筆・改変したものがあります。

(大塚常好、小澤啓司、原 英次郎、宮内 健、村上 敬=構成 小倉和徳=撮影  AP/AFLO=写真)
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