鍛え続ける環境を得ることこそが「キャリアの安定」

【徳重これからの安定は自分に力をつけることだと思ったから僕は会社を辞めました。単純に言うと、プロ野球とかサッカーと一緒なんですよ。和気藹々とやるような適当なサッカーチームに入って鍛えられるかというと、鍛えられないじゃないですか。一番苦しいチームに入ってがんばれば鍛えられるわけで、そこでバリューがつけば、さらに競合チームに移籍するオプションが得られる。ビジネスでも同じで、どこへ行っても通用する価値を得ることこそが絶対的な安定です。

今の日本の大企業だと、最初の数年は成長できる仕事をさせてもらえないし、細かい仕事ばかりで全体感も見えないまま、わけのわからない書類が増えるだけ。何のバリューがそこでつくんですか、と。僕らはベンチャー企業なんで人材は慎重に選ばないといけませんけど、資質があればどんどん任せるし、任せてこそ人は育つと僕は思っています。うちで1年やれば大企業で4年やったぐらいの力がつくんですよ。それくらい成長カーブがすごいんです。もちろんもともとのポテンシャルとマインドは必要です。

【窪田生きていく力を自分で身につけるわけですからね。私は生物学者だからこういう見方をするのですが、我々の体は1年経つと外見は安定して変わらなくても体を構成する分子は全く違う分子に変わっているわけです。これをdynamic stability(動的安定性)と言うんです。ろう人形でカチッとかためた固定的な安定ではありません。変動が激しい中での安定です。

キャリアにおける「安定」に話を戻すと、やはりあえて慣れない環境に身を置くことで、結果として変化に対応できる能力が身につく。これが安定ということであって、まったく変化のない凍結保存したような現状維持は、安定とは言えない。だから、勝ち抜く能力を身につけるためにも、絶えず違った環境に身を置きながら、自分が変化をしていくことを耐えながら成長カーブを維持していく。そういう感覚をビジネスでも持つ必要がある。

ちなみに、全世界の生物競争は動的安定性のもとに起こっているから、自分に変化がなくても、他の生物は成長し続けて進化しているわけです。人間は進化する生き物ですから、ビジネスとしても種としても世の中が常に変化していることを肌で感じる必要がある。その中で、自分は本当に安定しているかを考える。変化のない現状維持を安定というのであれば、それは後塵を拝することにすぎない。きちんとペースを保って成長できる環境に身を置くことが、本来の安定です。