リスクは「危機」ではなく「変動幅」、むしろ好機
【徳重】僕は今、月の3週間はアジアに行っていて日本は1週間ぐらいしかいないのですが、日本に戻ってくると、やたらリスクだ、リスクだっていう話を聞くんですよね。そこで意味するリスクは、危険という意味なんですよね。だから新しいことが始まらないんですよ。ところが、ファイナンス上もそうですが、本来のリスクはvolatility(予想変動率)なんですよね。要するにビジネスにおけるリスクは変動幅ですから、リスクが大きいというのは、上にも下にもボラティリティが大きいわけで、大失敗するか大成功するかという意味であるはずなんです。「危険」の「危機」の「機」も、「機」だけとれば「機会」だと言えるわけです。機会は好機になるわけですから、「機」のとらえ方ですよね。
【窪田】基本的に変化の率がどれくらい大きいか小さいかということでは、僕らの分野では、よくスマートリスクを取れと言います。要するに戦略的にリスクを取るということです。スマートリスクを投資のポートフォリオで言うと、そのボラティリティの中で、最悪のdownward(下方修正)になった時にいかにしてダメージを最小限に抑えるかを戦略として用意したうえでリスクを取っていくということですから。
すなわち、リスクを取らないということは、大失敗もしないかわりに、大成功もしない。つまりは、イノベーションが起きないわけです。
【徳重】僕が問題意識を感じているのはそこです。今の日本はとにかくベンチャーブームですから、数としては結構出てきている。しかも最近は頭のいい人が起業するケースが増えてきたので、事業的にもわかりやすい。わかりやすいというより、ロジックが立つ分野が多い。
結局それってわかりやすいがために市場が小さかったり、ありふれた分野であるがために利益率が低いケースが多々ある。私がシリコンバレーで感じた「Change the World」(世界を変える) と呼べる事業ではないものが多い。そもそも世界を変えることを目指してないですよね。本当にもったいない。日本の明治の頃には、人々の生活をダイナミックに変える企業がたくさんあったのに、なんで勝手にここまで縮こまっているのか、本当にもったいない。
【窪田】確かにアメリカでも、起業するという話はよく耳にするのですが、同じ起業でもベンチャー企業とMom & Pop Shop(家族で運営するような独立した小規模ビジネスなど) とでは大きな違いがありますから。市場に新たな高付加価値を生み出し、将来的に世界規模のビジネスが展開できるような急成長モデルが描けるかどうかが、ベンチャー企業の挑戦なんですよね。
【徳重】統計的なデータを見ると、何をもってイノベーティブな企業であるのか、何をもって大企業というのか、こういった定義は時価総額、売上、利益率などで表されるのですが、総合するとアメリカの場合は10年経つと上位を占める会社が半分ぐらい入れ替わるんですよね。20年経つとガラっと変わっている。日本の場合、10位内にあがってきたのはソフトバンクぐらいですよね。他はほとんど同じメンツです。しかも、就職ランキングなんて、僕が新卒で就職活動していた時とまったく変わってないですから。あの時代から大規模に成長する会社が現れてこなかったのか、学生はまだそういう就職ランキングに踊らされるのか。こういったことを鑑みると、ちょっと日本はおかしいんじゃないかと思います。
【窪田】ダイナミズムが少ないですよね。やっぱり長期安定性というものを重視している感じがしますよね。それって、イノベーションとは対極のところにある。イノベーションを起こすには、変革を起こさなければいけない。変革を起こすためには、残念ながら改悪になる可能性もある。けれども、そのリスクを取らなければ改良にもならない。
言い換えると、失敗をある頻度で許さないと、イノベーションは起こせない。非連続的な大きな変化やすごく大きなイノベーションが起こる代わりに淘汰される企業もたくさん出てくる。これが本当のイノベーションですよね。