「テラモーターズの徳重さんに会われたことありますか?」
 起業家として取材を受ける窪田良CEOに、多くの記者が聞いてくる質問だ。テラモーターズは、2010年に設立された現在アジア展開に注力するEVベンチャー。同社の徳重徹社長は、「ベンチャーのくせに」という意識を覆すべく、あえて「ベンチャーのくせに出来るのか?」と聞かれる分野で頭角を現す。ガソリンを使わない電動バイク、電動シニアカー、電動三輪などを手掛け、2012年に国内シェアトップに躍り出た。
 治療法がなく失明をおびやかす眼疾患の治療法の発明に人生をかけるアキュセラ・インクの窪田CEO。理系の経営者ならではの機知で米国に集まるグローバル人材を束ねる。
 世界市場を舞台にメガベンチャーを志す二人の起業家が繰り広げる話は非常に興味深い。両者は、先人が築いてきた日本ブランドが今、音を立てて崩れ去ろうとしている状況に警鐘を鳴らす。この対談でベンチャーの意義、世界で勝ち抜くための経営手法について語り合う。世界が日本人の存在を誇る日はやってくるのか。

「ベンチャーのくせに」を覆し、技術革新で国内シェアトップに

徳重 徹(とくしげ・とおる)●テラモーターズ社長。1970年、山口県生まれ。九州大学工学部卒業。住友海上火災(現三井住友海上火災)勤務を経て渡米。サンダーバード国際経営大学院にてMBA取得。シリコンバレーでベンチャー企業のハンズオン支援ビジネスを展開後、2010年、EVベンチャーのテラモーターズを設立。著書に『世界へ挑め!-いま、日本人が海外で戦うために必要な40の発想』などがある。 >>テラモーターズ http://www.terra-motors.com/jp/

【窪田私はもともと日本で眼科領域の研究と眼科医をしていたんです。そのキャリアを通じて治療ができない眼疾患の治療法を自分が生きている間につくり出したいという思いが強くなり、さらなる研究をするために渡米しました。渡米先のワシントン大学での研究が起業するきっかけになったんです。まさか自分が起業するなんて渡米の時には思ってもいませんでした。

徳重さんはどのようないきさつで起業したのでしょうか。

【徳重僕が起業した理由は、日本からメガベンチャーが生まれてこないことに危機感を持っていたからです。これはシリコンバレーやアジアに行って感じたことです。

起業するからには、あえて大企業が参入する分野にこだわりました。「ベンチャーのくせに」という日本のビジネス社会に根付いた意識を覆したいという思いが強かったので。だから、「ベンチャーのくせに製造業」とか、「ベンチャーのくせに世界市場を狙う」とか、「ベンチャーのくせに大手企業が参入する分野」でやっています。

日本的には非常にクレイジー呼ばわりされることもありますが、そんな奴も多少いないと日本は駄目になってしまうという気持ちでやっています。それに、EVはイノベーションが起こる分野ですから。

【窪田大手企業がやっている分野であろうと、本当に革新的な技術とかビジネスモデルがあれば、ベンチャー企業はそれを切り崩していくことができるんですよね。私も同じで、競合はみんな大手製薬企業ですからよく分かります。これが本来あるべき成長性の高いベンチャー企業の姿ですよ。事業展開についても聞かせてください。

【徳重私が会社を設立したのは2010年で、ちょうど4年目を終えるところです。EV、電気自動車の分野の中でも二輪と三輪にフォーカスしています。日本ではEVバイクの分野でトップシェアになりました。アジアでは、ベトナムで二輪、フィリピンでは三輪を展開しています。その三輪については、政府のプロジェクトがあって、10万台ほどトゥクトゥクのような乗り物をEVに替えるという入札があります。今、29社のうちの4社の中に選ばれていて、最終プロセスの段階です。

アジアはとにかく排気ガスとか石油依存からの脱却が課題になっています。アメリカもそうですけど日本のように空気がクリーンな国では大気汚染がどれほど深刻な問題であるかなんて普段の生活の中ではなかなか感じませんよね。アジアでは大気汚染にしても石油の問題にしても非常に大きな問題になっていて、それを解決したいと思っています。

【窪田医療の世界にはアンメットメディカルニーズといって、相当数の患者がいるのに治療法が存在しない病気があるんです。我々は、そういったアンメットメディカルニーズに革新的なソリューションをもたらそうと取り組んでいるのですが、まさに大気汚染も深刻な問題ですよね。ガソリンを使わない乗り物に切り替えることが抜本的な解決につながりますから、アジアでの事業拡大を応援しています。