最初は30人足らずの中小零細企業から始まった京セラは、現在では海外も含めて7万人規模の会社になりました。しかし、創業当初から私が考えていることはずっと一緒です。

まず頭にあるのは、私が失敗して会社を潰してしまえば、私の技術を信頼し、私の人間性を買って資本金の300万円を出してくれた方々、そして家屋敷を担保にして銀行から設備投資のための1000万円を借りてくれた方々に大変な迷惑をかけてしまうこと。また、30人足らずとはいえ、せっかく私を頼って集まってくれた人たちの仕事を失ってしまうことです。だからなんとしてもこの会社を成功させなければならないという、一途な使命感が支えでした。

私はもともと大変に怖がりな性格で、俗っぽく言えば“びびり”です。それだけに会社を潰すことが怖くて怖くてたまらなく、なんとしてもこの会社を守っていかねばならないと必死になったのです。その後、どんどん成長して会社が立派になり、東京証券取引所に上場するようになっても、まだ心配で心配でたまりませんでした。そうした会社を守らなければという思いは、零細企業のときからずっと変わっていません。

私は今、81歳(取材当時)ですが、この年になって、真のリーダーはもともと気の小さい小心者で、前述したように苦難に耐え、努力を積み、非常に強い意志力と人間性を持つ人間でなければならないと思うようになりました。そして真のリーダーには、慎重さも大事だと痛感しています。

マイクロソフト社をつくり、すでにリタイアしてビル&メリンダ・ゲイツ財団をつくったビル・ゲイツの逸話を描いた本を最近読みましたが、驚いたことに彼は大変な小心者だったようです。

いわゆるシリコンバレーで隆盛をきわめはじめたときのビル・ゲイツの手帳には、「マイクロソフトは大変なことになりそうだ。このままでいったら、近いうちに潰れるかもしれない」と、いろんな状況に直面したときの不安が書かれていました。その手帳の内容が地方新聞に掲載されたことがあったそうですが、ビル・ゲイツ本人が書いたものだけに、「華やかに見えるマイクロソフト社だが、実のところ内情は大変なようだ」という話になり、株が一時暴落したそうです。

その本の著者が、ビル・ゲイツは病的なぐらいに怖がりだったが、そういう小心者が、その小心さを超えて大胆なことをやれたからこそ、真の勇者になれたんだ、と最後に書いていたのが印象的でした。