「風林火山海」の精神が大勝利をもたらす

黒船・イーベイとの一戦は終始一貫して我々の圧勝でした。しかし決して最後まで手を緩めなかった。それは僕がつくり上げた「孫の二乗の法則」の中の「風林火山海」の精神があったからです。

「孫子の兵法」に、僕がオリジナルで「海」を加えた。この海、「呑み込むこと海の如く」という意味です。これは戦いを展開する方法を示しています。武田信玄は「風林火山」の4文字を旗印にしました。風林火山で戦いをして、あたりは死人の山。みな疲弊しているけれど、そのままで戦いを終わりにしてはいけない。戦いが終わり、広い、深い、静かな海のように全部を呑み込み、平らげて、そこで初めて戦いが終わるのです。なぜなら焼け野原の下では、またそこから火が起こることがあるから。そこから下克上が始まる可能性があるのです。それでは世は治まらない。動乱のままです。平和な状態まで持っていって初めて戦いは完結するのです。

京都大学経営管理大学院准教授 曳野 孝氏が解説

曳野 孝氏

IT業界ではwinner takes all。トップの企業がマーケットシェアを根こそぎ持っていきます。90年代のマイクロソフトWindowsが好例です。当時はアップルのMacintoshが質的に優位という声もありましたが、実際はWindows派が圧倒的多数。それはWindowsとMacintoshに互換性がなく、ユーザーは数が多いほうに合わせたほうが便利だったからです。このように利用者が多いほど利便性が高まる性質を“ネットワーク外部性”といい、情報産業ではそれが特に働きやすい。

孫さんもネットワーク外部性の大切さは肌身に染みてご存じのはず。だからこそイーベイの参入時には共存より戦う道を選んだのでしょう。現在も通信業界トップはNTT。ソフトバンクが一定以上成熟した後も積極的な姿勢を崩さないのは、やはり「2位は敗北と同じ」と強く思っているからかもしれません。

●正解【B】――「圧倒的ナンバーワン」になるためには、ときには強敵とも戦う必要があるから

※本記事は2010年9月29日に開催された「ソフトバンクアカデミア」での孫正義氏の特別講演をもとに構成されております。設問文等で一部補筆・改変したものがあります。

(大塚常好、小澤啓司、原 英次郎、宮内 健、村上 敬=構成 小倉和徳、浮田輝雄=撮影 時事通信フォト=写真)
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