若いころのように7~8時間連続で眠れなくなったことで、「眠れない」という焦りを抱いてしまう人は多い。このような人は、「眠くなくても暗闇で横になっていれば、いずれ眠くなる」と考え、早めに布団に入る。ところがこれが、不眠の原因になってしまうという。

「本当に必要な睡眠時間はほぼ足りているうえに、眠ることに緊張や不安を持っているから、なかなか寝つけない。そのうち、『寝室=眠れない場所』という条件づけをしてしまうのです」

この悪循環を断ち切る方法は単純で、「本当に眠くなるまで布団に入らない」こと。10分たっても眠れない場合は寝室から出て、ほかのことをする。次の日は寝不足になるだろうが、それでも決まった時間に起床し、昼寝はしない。そうすれば人間の体は必ず睡眠不足を取り戻そうとするから、だんだんと夜眠れるようになっていく。同時に自分で日記や表に睡眠の記録をつけていくと、「意外と眠っている」「これくらいの睡眠時間でもけっこう大丈夫」と自覚できるようになっていく。

この治療法は「認知行動療法」と呼ばれ、欧米では20年以上前から行われ、日本でもこの数年で急速に広まってきた。この方法で不眠に対する緊張感や不安感、長年の誤った習慣などが取れると、過剰な覚醒が治まっていくことが実証されている。

「この治療法を続けていくと、自分で不安を緩和できるという『自己効力感』が持てるようになります。その時点ですでに、不眠症治療は8合目を迎えている。つまり不眠症というのは、睡眠がセルフコントロールできない不安感から不眠恐怖が強まる、とても主観的な病気なのです」

だがその一方で、不眠をあなどってもいけない。倦怠感や集中力低下など、日中の問題が週3回以上、かつ4週間以上続くようなら、受診を躊躇しないほうがいい。なぜならそれくらい不眠が続くと、自然に治る可能性は極めて低くなるからだ。たとえば精神的なショックが原因で、一晩中眠れなかったというようなケースでも、だいたい数日から2週間程度で自然と治ることが多い。だがそれ以上長く続くと、体の中で変化が起こってくる。