イスラム最大の歴史学者、イブン・ハルドゥーンは、「宗教の毒を避けるためには、いったん伝統宗教を学ばねばならない」と言っています。僕もその通りだと思います。信者になれということではありません。社会とは別個の価値観を持つがゆえに、信教は危ないといえば危ない。下手をすれば社会に適応できなくなる。伝統宗教に耳を傾けるのは、そういう危ないところを避けるためです。これは、正しい宗教と間違った宗教があるというのではなく、どの宗教にも危ないところと素晴らしいところがあるという意味です。

伝統宗教のお話は、できれば教会や寺院に直接聴きにいってください。それには理由があります。海に行けば海の宗教性、山に行けば山の宗教性……と、その場その場を感じ取るアンテナが発達しているのが我々日本人の宗教性です。

ところが、今は逆に自分でバリアを張らないと、傷ついてばかりでボロボロになってしまう。だから、そのバリアを取り去って無防備な自分に帰れる時間と場所が、今のあなたの日常にあるかどうか。それが大切です。仏や神に無条件で抱かれる時間があれば、生きる辛さも少しは緩和されます。

そういう場に身をおくには、宗教性・文化性豊かな古典芸能もお勧めです。発信しているものは微かですから、見る側がセンサーの感度を上げないと楽しめません。その微かなものを感じているうちに、どんどん奥行きが見えてきます。特に落語は宗教も笑いものにする成熟文化。伝統宗教の二枚腰、三枚腰と、宗教を笑いものにするセンスを備えれば、おかしな宗教に引っかかることもないでしょう。

ちなみに、危ない宗教団体を見分けるには、ネットなどで訴訟問題や被害者の会の有無を調べるといい。そういう団体には基本的に近づかないこと。自分は大丈夫だと思っていても、勧誘の手口には巧妙なものがたくさんあります。本気で狙われたら、ちょっと逃げられません。

浄土真宗本願寺派住職、相愛大学教授 
釈 徹宗

1961年、大阪府生まれ。大阪府立大学大学院博士課程修了。NPO法人代表として認知症高齢者のケアも行う。
(構成=西川修一 撮影=吉川 譲)
【関連記事】
つらい世の中が楽しくなる!『般若心経』入門
これだけは知っておきたい坐禅&瞑想の基本
美輪明宏が見た「運のいい男の法則」
信者以外もOK! 癒されたい人の「日曜礼拝」入門
ブッダの言葉「苦しみを消すには、自分自身を変えるしかない」