「食糧自給率重視」からマーケットイン発想へ

【弘兼】企業経営では「顧客が何を欲しているか」というマーケティングの重要性が年々高まっていますね。私が『島耕作』シリーズで描いてきた電機業界では特に顕著です。技術的に優れたものではなく、顧客が欲しがるものをつくれなければ、生き残れません。しかし、残念ながら農業の世界では、まだマーケティングの重要性が理解されていないように思えます。

【新浪】農家の皆さんが自分たちの価値に気づいていないところはありますね。ローソンは出資する農業生産法人の運営で、農家の皆さんとのお付き合いが増えました。そのなかで、うちの社員が地元の浅漬けを食べさせてもらう機会があった。これがびっくりするほど美味しいんです。担当者が「どうしてこんなに美味しいものを売らないんですか?」と聞くと、「こんなもん、売れるわけないでしょ」という答えが返ってきたそうです。いまでは「胡瓜と白菜の浅漬」という人気商品です。

【弘兼】何が売れるのか、当事者にはなかなかわからない。

【新浪】企業には顧客を集めるマーケティングのノウハウがあります。その力を使えば、新たなビジネスが生まれ、農家の収入も増える。農協が取り組みのなかで、顧客をもっと見るようになれば、段違いによくなるはずです。いわゆる「マーケットイン」の発想ですね。これまでそれがなかったのは、農協だけの責任とは言い切れません。

【弘兼】日本の農業が「マーケットイン」から離れてしまったのは、「補助金」の影響も大きいですね。農業は大変な仕事だからみんなで守らないといけない、といった考えがある。でも、農家に限らず、個人事業主や中小企業の経営者は誰からも守られていない。みんな生きるか死ぬかでやっているのに、農業だけ守られる、というのはちょっとアンフェアではないかと思うんです。新浪 「補助金」に関しては、米とそれ以外を分けて考える必要があります。米以外、特に野菜やフルーツは非常に競争力が高く、補助金はほとんど使われていません。問題は米です。

(文中敬称略)

ローソンCEO 新浪剛史
1959年、神奈川県生まれ。81年慶應義塾大学経済学部卒業、三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了、MBA取得。2000年ローソンプロジェクト統括室長を経て、02年ローソン顧問から社長に。10年より経済同友会副代表幹事。
漫画家 弘兼憲史
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)勤務を経て、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。85年に『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、91年に『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞を受賞。2007年紫綬褒章受章。
(田崎健太=構成・文 門間新弥=撮影)
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