弘兼憲史氏

【弘兼】2012年の日本の「農業総産出額」は8.5兆円あります。このうち米が2兆円。しかし商業用の米の輸出額はわずか7億円です。産出額が5300億円ある豚肉でも、輸出額は3億円。圧倒的に輸出の割合が少ない。

【新浪】日本はあらゆる農産物に手を出している一方で、どれも規模が小さい。オランダの反対です。オランダは生産する品目を政策的に絞っています。たとえば有名なチーズも、原料の生乳はフランスから輸入し、加工してから輸出しています。狭い国土は畜産に向いていないからです。

【弘兼】すべて自前でまかなうのではなく、「オランダは農業の加工貿易国である」という割り切った考えなのでしょうね。

新浪剛史氏

【新浪】オランダでは1602年に世界最初の株式会社といわれる「東インド会社」が設立されています。東インド会社は東南アジアとの香辛料貿易を盛んに行いました。その点では農産物を製品として扱う伝統があります。

【弘兼】日本人は農業が苦手ではないのだけれど、明治維新以降、欧米列強の仲間入りをするために、工業にばかり力を入れてきました。

【新浪】もう一つ、オランダで注目すべきなのは、産学協同の「フードバレー」の形成です。農業や食品に特化したワーゲニンゲン大学を核として約1500の企業や研究所があり、世界中から専門家が集まる仕組みができています。スタンフォード大学を核としたアメリカの「シリコンバレー」に通じます。

【弘兼】遺伝子組み換えなどのバイオ技術や「植物工場」に代表される革新的な生産体制、鮮度を落とさない食品保存の研究など、農業に関するあらゆる「知」を世界から集め、総合的な発展を助けているというわけですね。