腕時計に求める価値の変容

Apple Watchのような多機能スマートウォッチが普及する一方で、ファミマのチープな腕時計が売れる理由は、腕時計に求める価値が、多機能からシンプルさやファッション性へと広がっているからだ。

消費者の視点で整理すると、主に次の5点がある。

・時間がわかれば十分:スマートフォンがあるので、腕時計に多くの機能を求めない人が増えた。
・充電の手間がない:毎日の充電や通知に煩わされず、気軽に使える。
・安さが魅力そのもの:高額なスマートウォッチと違い、気軽に購入できる。
・ファッションとして楽しめる:高級感よりも、シンプルで少しレトロなデザインに価値を感じる。
・コンビニで買える意外性:日常的に立ち寄るファミマで、思いがけず欲しい商品に出会える。

特に重要なのは、「安いから仕方なく買う」のではなく、「安くてシンプルであること自体に価値を感じている」という点だ。数千円の価格帯のカシオの腕時計が「チープカシオ」と若者の間で再評価されている背景とも重なる。機能を削ぎ落としたミニマルさが、かえって「今の自分にちょうどいい」と感じられる。通知に追われる日常から少し距離を置きたい、という心理も働いているのかもしれない。

この商品ならではの強みは、単なる安さではない。「シチズンの品質」「デザインのセンス」「2000円を切る価格」の組み合わせにある。水泳時も使える10気圧防水は実用的で、子どもから大人まで使えるサイズ感も、ファーストウォッチとしての需要を拾っている。SNSでも、デザインや価格と品質のバランスを評価する声が見られる。

写真右=24時間営業というコンビニの特性上、衛生面からパッケージは必須だった。写真左=バンド部分などに「ファミマカラー」があしらわれている
画像=プレスリリースより
写真右=24時間営業というコンビニの特性上、衛生面からパッケージは必須だった。写真左=バンド部分などに「ファミマカラー」があしらわれている

コンビニウェアの育成が生んだ「目的買い」

さらに小売業の視点では、ファミマが「コンビニエンスウェア」を育てたことが大きい。2021年3月に立ち上げ、コンセプトは「いい素材、いい技術、いいデザイン。」。ラインソックスを中心にTシャツやスウェット、雑貨まで拡充し、売上は2025年度に200億円を突破した。いまも毎年30%前後の成長を続けている。

写真左=TBS系日曜劇場「VIVANT」の世界観をイメージして配色したラインソックス、写真右=コンビニエンスウェア×「FUJI ROCK FESTIVAL'26」毎年恒例、コラボアイテム
画像=プレスリリースより
写真左=TBS系日曜劇場「VIVANT」の世界観をイメージして配色したラインソックス、写真右=コンビニエンスウェア×「FUJI ROCK FESTIVAL'26」毎年恒例、コラボアイテム

従来のコンビニ衣料は「緊急時にやむを得ず買うもの」だった。それが今は、商品を目当てに来店する「目的買い」に変わってきている。腕時計は、そのブランドラインナップの延長線上にある「チャレンジ商品」(ファミリーマート広報)だ。

人気のラインソックスなどと組み合わせて全身をコーディネートできる楽しさが、人気に拍車をかけた。時計単体の機能ではなく、ブランドとしての世界観の中に置かれたことで、日常のファッションアイテムとしての位置づけが強まったのである。