4000億円の貢献。口癖は「結果に頼れ」
――福岡ソフトバンクホークス社長兼オーナー代行 後藤芳光
出会いは衝撃的でした。経営危機に陥った安田信託銀行を立て直すため、富士銀行が送り込んできたトップが笠井さんでした。笠井さんは最初の挨拶で、手を後ろに組み、我々の目をみて、自分の言葉で激励しました。銀行のトップといえば、用意された原稿を読み上げる人ばかりだったので、行内の士気は一気に上がりました。実際に、笠井さんは徹底的な現場主義でした。融資でも不動産でも、営業先に同行して、猛烈な人脈でトップセールスをする。強烈なリーダーシップをもっていました。
ソフトバンクに転じてからは、一歩引いた「参謀」の役割を自任されていたと思います。役員会議での発言は多くない。しかし一言に重みがあります。いつもポジティブで、どんなにつまらない話でもニコニコして聞いてくれる。だから珍しく否定的なコメントをしたときには、大きな影響力がある。去年後半は車椅子で会議に出ていました。「無理はしないでください」とお願いすると、笑いながら「まだおまえらにはできない仕事がある。わしがおるだけで仕事になってるじゃろ」と。
伝説的な為替ディーラーとしても、最後まで腕を振るいました。スプリントの買収では、円相場の変動を予期し、買収資金を1ドル82円でヘッジすることで、約4000億円の貢献をしています。
笠井さんはいつも「結果に頼る仕事をしなさい」と言いました。胸に手を当てて、自分の「仕事」を振り返ったとき、後悔することはないか。14年前、同じ日にソフトバンクに入社した笠井さんは、私の人生の師です。
(プレジデント編集部=構成 ソフトバンク=写真提供 遠藤素子=撮影(橋本氏、後藤氏))