認知の歪みが被害者意識へとつながる
その結果、成績の悪さを非難されることであらかじめ欲求不満に陥らされた参加者のみ、アシスタントの能力を低く評価していた。この厳しい評価は、攻撃衝動の発散とみなすことができる。前もって欲求不満状態にあった人だけが、早口や言い間違いといったアシスタントの行動に対してイラつき、攻撃反応を示したというわけである。
欲求不満状態にある人にとっては、早口や読み違いといった些細なことも、腹を立てるに十分なことと感じられるのに対して、欲求不満状態にない人にとっては、そのようなことはとくに腹の立つこととは感じられない。
このように、欲求不満状態にあると、相手にはまったく悪意のない言動にも悪意を感じたりするような認知の歪みが生じやすい。そこに被害者意識が入り込むことになる。
「こんなはずじゃなかった」という思い
精神科医の香山リカは、路上やネットでヘイトスピーチをする人たちのSNSでの発言をたどると、ひとつの心理的傾向が浮かび上がってくるという。
「それは『自分はこんな人生を送るはずではなかった』という現状への不満、不本意さである。さらにその背景にあるのは、『自分は本来もっと利益を得てもよかったはずだ』という根拠のない万能感だ。『本当はもっと成功したり世間から注目されたりしてもよい筈だったのに、今は非正規雇用の身に甘んじている。これは不当なことだ』という怒りがその根底にあるのだ」(香山リカ「傷つけられた自己愛――ヘイトスピーチ」『臨床心理学』第18巻第5号、2018年)
そして、自分が得るはずだった取り分をだれかが搾取しているのだといった妄想のような思いに駆られ、マイノリティを攻撃するヘイトスピーチに走るのだという。そのような人のことを香山は、「私にはもっと賞賛や成功が与えられてもよいはず」という幻想を手放せない、「誇大自己」をもち続けた人たちであると言う。

