中古車市場に状態の悪い車が残りやすいのはなぜか。名城大学経済学部教授の加藤真也さんは「いい商品が市場から消え、悪い商品が残ってしまう背景には『情報の非対称性』がある」という――。

※本稿は、加藤真也『この1冊でミクロとマクロが同時にわかる経済学』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

中古車置き場の自動車
写真=iStock.com/Ray Geiger
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情報の有無によって市場がゆがめられる

本稿では、情報の非対称性を考える。情報の非対称性とは、取引に関わる人の間で持っている情報に差がある状態である。

例えば、中古車を売る人は「車が事故車だったか」「どのように使われてきたか」をよく知っている。しかし、買う人は見た目や簡単な説明だけでは、その車の本当の状態を十分に判断できない。

逆の場合もある。保険に加入する人は自分の健康状態や運転のクセを保険会社よりよく知っている。企業が従業員を採用するときも、応募者本人は自分の能力や努力の程度をよく知っているが、企業はそれを完全には知らない。

情報の非対称性があると、取引相手の質や行動を正確に見抜けない。そのため、いい取引が成立しにくくなったり、契約後に行動が変わったりする。

ここで登場するのが、逆選択とモラルハザードである。

ここで、逆選択とモラルハザードの違いを押さえておこう。

逆選択は、取引する前に相手のタイプや品質がわからない問題である。中古車の品質が買い手にはわからない、保険に入る人の健康リスクが保険会社にはわかりにくい、といった場面で生じる。

モラルハザードは、契約した後に相手の行動が見えにくく、その行動が変わる問題である。保険に入った後に注意が弱まる、雇われた後の努力水準が見えにくい、といった場面で生じる。契約の前に問題があるのか、契約の後に問題があるのかで考えると、この2つは区別しやすい。

まずは、契約「前」に相手側の品質がわからない逆選択から見ていこう。