日本が逃げ続けてきた“仕事”
エンジンの推進力を決める要素は、大きく3つです。
1つ目は労働力です。働く人と働く時間が増えれば、モノとサービスをたくさん生み出せます。
2つ目は設備です。良い機械や設備を整えれば、同じ労働力でも多くの価値が生み出せます。
3つ目は技術です。高い値段で売れる魅力的なモノやサービスを作る力、効率的な生産方法や販売方法を生み出す力があれば、同じ労働力と設備でも、より多くの価値が生み出せます。
労働力と設備と技術、この3つがどのくらいの勢いで成長する環境があるかによって、それぞれの国の潜在的な成長力が決まるのです。
少子高齢化が進む日本で、労働力の大幅な増加は期待できません。少子高齢化対策が成功しても、労働力に寄与するまで20年はかかります。だから当面、日本は設備と技術を伸ばし、一人当たりが生み出す価値、つまり労働生産性を高める必要があります。
ところが私たちは、この十数年、成長エンジンの故障を根本から直すつらい仕事から逃げ続けてきました。
政府は何から逃げ続けてきたのか
景気が悪い時、政府ができることは大きく分けて2つです。
1つは、需要を作る政策です。政府が公共事業を増やしたり補助金を配ったりする財政拡張と、日本銀行が金融を緩和して資金を潤沢に供給する金融緩和とがこれに当たります。
もう1つは、供給力を高める政策です。規制を見直し、古い産業から新しい産業への入れ替えを促し、企業が効率的に価値を生み出せる仕組みを整える。いわゆる構造改革です。
何かの原因で需要が急減した時に、政府と日本銀行が需要を作って景気を支えることは有用です。公共事業と補助金で需要を作れば余った労働力と設備が使われ、国内生産で賄えない分は輸入され、売上と利益が増えて景気が支えられます。企業も国民もひとまず安心できるでしょう。
しかし、その機をとらえて企業が日本で新しい設備投資をすることをせず、技術力を高めることもせず、人材を新しい分野に移すこともしなければ、潜在成長率は変わりません。政府と日本銀行が需要を作るのをやめれば需要が元に戻り、生産も元に戻り、後には需要を作るために使った財政支出と金融緩和の副作用だけが残ります。
需要を作る政策は、緊急時のカンフル剤として効果を持ちますが、成長エンジンそのものは直せません。平常時にカンフル剤を打ちすぎると、企業と家計がその心地よさに安住して、経済構造を変える意欲が鈍ります。日本が長く続けてきたのは、この政策でした。
エンジンが壊れた自動車でも、給料を払って人を集めて押させている間は前に進みます。しかし、エンジンを直さなければ、給料が払えなくなった瞬間に止まります。

