破傷風の原因は「錆びた釘」ではない
破傷風は「錆びた釘を踏んだときにかかる病気」だと思っている人も多いでしょう。しかし、錆そのものが破傷風の原因ではありません。破傷風菌は、土壌などに広く存在し、非常に頑丈な「芽胞」という状態で長く生き残り、人の傷口から体内に侵入して増殖し、毒素を作ることで破傷風という感染症を引き起こします。
深い刺し傷だけが危険というわけではなく、転倒したときの擦り傷などの小さな傷、本人が気づかなかった傷が感染の入り口になることもあります。たとえ小さな傷でも、土や泥などで汚染されることがリスクになるので、災害時も注意が必要です。
実際、2011年の東日本大震災後に、震災に関連した破傷風10例が報告されています。全員が震災当日に負傷した被災者でした。原因は災害そのものではなく、災害によって土や泥などで汚染された傷を負うこと。水害でも同じです。
冠水した道路を素足やサンダルで歩いてガラス片で足を切ったり、浸水した家の片付け中に釘を踏んだりすれば、破傷風菌が傷口から入る条件が揃ってしまいます。
ただし、これは「水害が起きると破傷風が大流行する」という話ではありません。河川の氾濫による洪水では、破傷風の報告は比較的少ないとされています。
ケガの数日~数週間後に「口が開かない」
では、破傷風になると、どんな症状が起こるのでしょうか。もしかしたら、映画『震える舌』で破傷風の恐ろしさを知ったという人もいるかもしれません。幼い女の子が破傷風にかかり、激しい症状に苦しむ姿を描いた作品です。
破傷風は、破傷風菌が作る毒素が全身の神経に作用するため、傷そのものは小さくても重い症状が起きることがあります。潜伏期間は一般に数日から3週間程度で、すぐに症状が起こるとは限りません。典型的な初期症状の一つは、口が開きにくくなる「開口障害」です。その後、首が硬くなる、飲み込みにくくなるといった症状が現れます。重症になると、全身の筋肉が強く収縮して刺激をきっかけに激しいけいれんを起こしたり、呼吸に必要な筋肉が働かなくなることもあります。
破傷風は、現代の日本でも決して軽い病気ではありません。人工呼吸器が必要になったり、命を落としたりすることもあります。しかも、抗菌薬を使って破傷風菌を排除すればすぐに治るという感染症ではありません。治療に使われる破傷風免疫グロブリンは、体内を循環している毒素を中和できますが、すでに神経に結合した毒素を取り除くことはできません。ですから、本来は破傷風が発症してから治療するのではなく、発症を予防することが大切なのです。

