冠水の水は「ただの雨水」ではない
今年は大雨による水害が多く、各地で道路や住宅が浸水する被害が相次いでいます。ニュースでは冠水した道路を歩く人の姿がよく映りますし、投稿動画の中には子どもが水に入って遊んでいる様子もあります。もちろん、まず心配なのは水害の直接的被害ですが、医師の立場から見ると水につかることによる健康被害も気がかりです。
冠水した道路にたまっている水は、空から降ってきた雨水だけではありません。下水や土壌、動物の排泄物など、さまざまなものが混じっている可能性があります。一見きれいに見えても、健康を害するリスクが潜んでいるのです。
実際、海外では洪水の後に、発熱や筋肉痛、黄疸などを起こす「レプトスピラ症」や腹痛や嘔吐を起こす「感染性胃腸炎」などの感染症が増えることが報告されています。2026年に発表された71研究の系統的レビューでも、洪水後にはレプトスピラ症のほかに「コレラ」「細菌性赤痢」「A型肝炎」「E型肝炎」などの水系感染症が増加していました(※1)。
ただ、これらの研究の多くは海外で行われたものです。日本と海外とでは衛生環境も違えば、流行している感染症も違います。海外で洪水後に感染症が増えたからといって、その数字をそのまま日本に当てはめることはできません。それでも冠水した水にむやみに入らないほうがいいことに変わりはないのです。
※1 Impact of flooding events on waterborne and vector-borne infections: a systematic review - PubMed
水の中を歩くときにはケガに要注意
そもそも、水害時に道路が冠水してから避難するのは大変危険です。できるだけ水につかる前に避難してください。ただ、急な大雨で避難する時間的余裕がないときもあるでしょう。移動が必要な場合もあると思います。やむを得ず水の中を歩くときには、ケガに注意してください。冠水すると、自分の足元が見えなくなるからです。
例えば、道路と側溝の境目がわからなくなったり、マンホールの蓋が外れていても見えなかったりすることがあります。水中にガラス片や釘、木片などがあるかもしれませんが、それも見えません。どうせ濡れるからと、サンダルや裸足で歩くのは危険なので絶対にやめてください。
では、長靴を履けば安全でしょうか。じつは冠水時は必ずしもそうではありません。政府広報オンラインでは、水が入ると歩きにくくなる長靴よりも、ひもで足元を固定できる運動靴やトレッキングシューズを履くことを推奨しています(※2)。
そうして気をつけていても水害時にケガをしてしまった場合、または元から傷がある場合に十分注意してほしい感染症があります。それは「破傷風」です。
※2 【防災特集】ACTION02 発災時の行動|政府広報オンライン

