認知症は遺伝だけで決まるわけではない

本書の第2章でAPOE遺伝子についてお話ししたように、認知症の発症には、生まれ持った遺伝的な素因も確かに関係しています。

しかし、認知症は遺伝だけで決まるわけではありません。

教育、聴力、血圧、運動、喫煙、社会とのつながりなど、人生のさまざまな時期に働きかけることのできる要因も少なくありません。

つまり、遺伝的なリスクを持つ人であっても、日々の暮らしや医療、社会の取り組みによって、認知症の発症リスクを下げたり、発症を遅らせたりできる余地があるのです。

また、もうひとつ大切な観点があります。それは、巷にはいろいろな認知症の予防法がありますが、エビデンス(科学的根拠)のあるものに取り組むことが大切ということです。そして、人生のさまざまな時期に的を絞った介入を行うことが重要です。

健康的な生活を送っていた人のリスクは低かった

「うちの家系は認知症の人が多いから、もう諦めています」とおっしゃる方もいます。

しかし、遺伝的な要因があっても、それだけで将来が決まるわけではありません。

そういう方には、私は次の研究をお伝えします。

2019年に英国から報告された研究では、約20万人を遺伝的な認知症リスクが高い、中程度、低いという3つのグループに分け、生活習慣と認知症の発症との関係を調べました。

結果は明快でした。

遺伝的なリスクの高低にかかわらず、運動、食事、喫煙、飲酒などの生活習慣が健康的な人ほど、認知症になりにくかったのです。とくに遺伝的リスクが高い人でも、健康的な生活を送っていた人は、そうでない人に比べて認知症の発症リスクが約3割低くなっていました。

もちろん、遺伝的なリスクそのものを変えることはできません。しかし、遺伝子が将来をすべて決めるわけでもありません。

「うちは家系だから」と諦めるのではなく、気になる方こそ、変えることのできる生活習慣に目を向ける意味があります。

ご家族に認知症の方がいても、ご自身の遺伝的なリスクが気になっても、まずは日々の暮らしをひとつずつ整えることから始めてみましょう。

自然の中を歩く高齢夫婦
写真=iStock.com/Pekic
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