アメリカ人が「会話のタブー」としている話題にはどんなものがあるのか。大統領や国務長官と外交行事をこなすアメリカ国務省儀典官の大久保泉さんは「宗教や政治、容姿や年齢といった当たり前に避けるべき話題のほかに、火種になりやすい話題の一つに『週末の予定』がある」という――。
※本稿は、大久保泉『知られざるアメリカ外交儀礼』(角川新書)の一部を再編集したものです。
アメリカ人の雑談の「暗黙のルール」
アメリカ人との雑談は、明るくテンポがいい。初対面同士でも距離が縮まるのが比較的早い。特にワシントンのビジネスレセプションでは、ドリンクを片手に談笑し、10分足らずで区切りをつけて次の相手へ移り、次々とつながりを広げていく。参加者一人ひとりが、限られた時間の中で、効率よく、かつ気持ちよく関係を築くための会話の作法を心得ているように見える。そこには、いくつかの暗黙のルールがある。
外交やビジネスの交流では、相手の個人的な価値観や属性に触れる話題は慎重に扱う。こちらは社交辞令や軽い挨拶のつもりでも、侮辱や不快と受け取られ、場合によっては攻撃や差別と解釈されることすらあるからだ。アメリカ人は概しておおらかという印象がある一方で、人付き合いの礼儀の線引きがはっきりしている。踏み込んでよい領域と、触れないほうがよい領域が明確にある。
政治、宗教、容姿、年齢は「地雷テーマ」
「地雷」になりやすい話題は、概ね四つに収束する。政治、宗教、容姿、年齢である。どれも相手のアイデンティティに直結しやすく、距離が縮まる前に踏み込むと、場の空気がぎくしゃくする。
とくに政治と宗教は、個人の価値観の中核に触れやすく、対立に発展しかねない話題として避けられることが多い。日本では挨拶の延長で出がちな容姿や年齢への言及も、アメリカでは人種、性別、年齢に関わる偏見や差別につながる危険性をはらむ。褒め言葉のつもりでも、無礼とみなされる場合もある。

