関税をかけられれば円が下落する
しかし、内閣府の研究などによると、円レートが1%下がっても消費者物価指数は0.02%しか上がらないという(酒巻哲朗他「短期日本経済マクロ計量モデル(2022年版)の構造と乗数分析」内閣府、ESRI Research Note No.72, December 2022)。
最近は、この係数が大きくなっているという説もある。「円安の物価上昇力は弱い」というのは、企業が無理をして価格を据え置いていたデフレ期の過去の統計による実証分析にすぎない。
企業の価格設定行動が変わり、輸入依存度が強まった現在の日本経済においては、過去のモデルが弾き出す数字よりもはるかに強い力で、円安が物価を押し上げているという主張がある。しかし、例えば、木内登英「円安・物価高の連鎖は続くか」野村総合研究所、2026年7月10日によれば、「10%の円安で物価は0.27%上昇」となっている。これは過去の実証分析の1%で0.02%と大して変わらない。
なぜ円安の物価に与える影響が小さいのかというと、まず、消費者物価の中で輸入品の占める割合が小さいことがある。次に、輸入したものを店に持ってこないといけない訳で、輸入品の価格に流通経費が乗って小売店の価格になる。
最初の輸入品の価格が円安で上がっても、流通経費は上がらないので、10%円安になったからと言って消費者物価が10%上がる訳ではないからだ。さらに、農産物などが自由に輸入できないこともある。コメを始めとした穀物、畜産物などは自由に輸入できない。円安がコメ価格高騰の理由であるはずがない。
要するに、関税をかけられれば円が下落する。それは日本産業が競争力を取り戻すための市場の正常な反応で、国民生活を大きく低下させる訳ではない。
5500億ドル対米投資要求が円売りを促した
日本が5500億ドル(1ドル=160円として88兆円)の対米投資をするためには、それだけのドルを用意しないといけない。つまり、手元の円資金をドルに換える必要がある。これにより外国為替市場で円を売りドルを買うことになり、円安・ドル高圧力がかかる。
さらに、資金が日本国内に戻りにくい。一度ドルになってアメリカに渡った資金は、長期にわたってアメリカに投資されるのだから日本国内には戻ってこない。そのため、円売り圧力だけが一方的に残る。また、アメリカへの投資が無理なもので採算が合わなければ、なおさらドルは戻ってこない。
88兆円の投資をトランプ氏の残り2年の任期内に行わないとならないとすると、年に44兆円の投資をしないといけない。一方、海外投資の原資となる日本の経常収支黒字は年に30兆円程度である。使っている以上に稼いでいる外貨は30兆円分しかない訳だ。さらに44兆円の投資をするためには円を下落させて経常収支をさらに黒字にしないといけない。
