より「感情」に訴えたほうが勝てる
【第2の鉄則】感情に訴える
今回のオリンピック招致プレゼン成功の理由は、ロジカルだけで迫らず、聞き手の「感情」に訴えたことにあります。人は、理屈だけでは動かないのです。
東京ではオンタイムで電車が走り、安定した交通機関をはじめ、高度な都市機能があること。ドーピング違反者ゼロ。45億ドルの資金。これらは非常に論理的でした。
しかし、IOC審査員たちが気持ちを動かされたのは、これらの「ロゴス」ではなく「パトス」によってだったのです。
第一に、高円宮妃久子さまの東日本大震災に対する感謝いっぱいの笑顔。第二に、「片足を失ったけれど、スポーツに支えられて嬉しかった」という佐藤真海選手のニコニコ輝く笑顔。
そして、ついには安倍晋三首相までもが、「1964年の東京オリンピックに感動し、大学時代はアーチェリーをやった。スポーツは素晴らしい」と、身振り豊かに訴えました。彼らは、聞き手の「感情」に訴えたのです。
東京のプレゼンが終わった後、ロゲIOC委員長は開口一番こう感想を述べました。「彼らは最も多くのIOC委員の感情に訴えた、素晴らしい」、この言葉がすべてを物語っています。
【第3の鉄則】語り手が醸し出す「信憑性」(エトス)を大事にする
「あの人が言うから、本当だ」と、逆に「あの人が言うからたいしたことではあるまい」。どちらも、会社や団体でもよく聞こえてきそうな発言です。
語り手が醸し出す信憑性、つまり本当らしさや信用は、プレゼンの中では最も付け焼き刃が利かないことです。
これまでさまざまな実績を積み上げ、過去に嘘をついていないこと。または、その人の社会的地位を鑑みて、「やると言ったらやるだろう」と相手を信じ込ませる力です。
この代表例が、安倍首相でした。福島の汚染水が当然問題になるだろうと、前もっての情報収集でわかっていましたから、この問題については「私が責任を持つ」と言ったのです。これがもし、猪瀬直樹都知事が「私が責任を持つ」と言っても、恐らく信憑性が薄かったことでしょう。汚染水問題に全責任を負っている一国の首相が言うのだから間違いないだろう、これが「エトス」です。
エトスは、にわかには身につけがたいので、ビジネスマンがエトスの力をつけようと思ったら、日頃の実績を積み、決して嘘を言わない。これが一番大事なところです。