動物実験を求める米国、禁じる欧州

背景にあるのは規制緩和の遅れだ。ワシントン・ポスト紙は、アメリカの日焼け止めの有効成分の基準が1999年以来更新されておらず、これまで新成分を使用できなかったと指摘する。

そのため、望むレベルのUVカットを実現した製品が、アメリカの店頭で手に入らない。NPRによると、多くのアメリカ人が、輸入品につきものの偽造品リスクを承知で、ヨーロッパやアジアから日焼け止めを取り寄せてきた。

障壁は1938年の古い法律だ。多くの国では化粧品として扱われる日焼け止めだが、アメリカはこの法律で「医薬品」に分類しているとNPRは説明する。

NPRは、承認申請には動物実験が求められると指摘。EUでは化粧品の動物実験が禁じられていることから、欧州の消費者の反発を招くことを恐れている。そのため、メーカー側はアメリカでの申請に二の足を踏んできたという。

結果、アメリカで手に入る製品の多くは、UVAを十分に防げない。米健康・環境保護団体のEWGが2021年に発表した査読済みの研究によると、アメリカで販売されている51製品を実験室での吸光測定で調べたところ、UVBの防御力を示すSPF値は表示されている値の平均59%にとどまった。UVAの防御力を示すUVA-PFは、EU基準ではSPF値の3分の1以上が求められるところ、平均24%だったという。

アメリカで長年承認が滞ってきた具体的成分に、海外で広く使われるベモトリジノールがある。スイスに本社を置く化学品メーカーのDSM-Firmenichは、このたった一つの成分の承認をアメリカで得るために20年をかけ、1800万ドル(約27億7000万円)を投じたと、同社の上級マネージャー、カール・ドルイス氏はNPRに語った。

ドラッグストアで日焼け止めを選ぶ女性
写真=iStock.com/Lajst
※写真はイメージです

ついにアメリカが安全と認めた“有効成分”

こうして今年6月9日、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、日焼け止めの有効成分(UVフィルター)として、ベモトリジノールを承認した。新たな有効成分が追加されたのは1999年以来、27年ぶりとなる。

FDAのプレスリリースで、アメリカのロバート・ケネディ・ジュニア保健福祉長官は、「ヨーロッパで数十年にわたって安全に使用されてきました」と強調した。申請は最大6%までの濃度での使用を求めたもので、成人と生後6カ月以上の小児への使用を「一般的に安全かつ有効であると認められている」と判断された。

ベモトリジノールは、従来の一部のUVフィルターに比べ、日光で分解されにくい「光安定性」に優れている。同じ成分を長年使う花王の「ビオレ」などに追いついた形だ。

冒頭のプライスさんによると、現在ではオーストラリアでも毎日塗る習慣が広がり、各社が軽いタッチの日焼け止めを研究している。

シンプルに使えて肌を守れる日焼け止めは、科学研究の賜物だ。同時に、規制を戦い抜いた商品であり、人類をがんから守るシールドでもある。

「私にとっては、月面着陸にも匹敵する化粧品です」という彼女の言葉は、決して大げさではないのかもしれない。

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