「とかっていう病気はないぞ!」

教授がさらに聞いてくる。

「なんで超音波検査をする?」
「低侵襲だからです」
「あんたは?」
「低侵襲だからです」
「あんたは?」
「低侵襲だからです」

これも5回くり返される。理由は……同じく。

教授がさらにさらに聞いてくる。

「超音波検査で何が分かる?」
「……」

うっ。そこまでは申し送られていない。何が分かるかって、何が分かるんだろう? これまでさんざん授業をサボって来たから、超音波検査という名前は知っているが、教官が超音波検査をしている場面は一度も見たことがない。

誰も答えないと、教授は一言も発しない。赤い顔(前にも書いた)をさらに赤くしてぼくらを睨んでいる。

「じゃあ、あんたら、人間の体が腫れていたら何を考える?」

うちのグループの中で一番優秀な奴がおずおずと答える。

「……炎症とか、打撲とか」

すると火山が噴火する。

「とかって何だ! とかっていう病気はないぞ!」
「はい! 炎症です」
「じゃあ、あんた、炎症ってなんだ?」
「うっ……」
「いいか、あんたら、オレが聞いているのは小児外科のことじゃないぞ! 医学の基礎だぞ!」

ピントがぼけた病院の廊下
写真=iStock.com/Nastco
※写真はイメージです

「病理学で習ったろ!」

「病理学で習ったろ! 発赤、腫脹、発熱、疼痛、循環障害。それが炎症だ!」

高橋先生はドイツ語で五つの定義を並べた。そう言えば、遠い昔にそういうことを習った記憶が……。

「侵襲が少ないから超音波検査をするのか? だったら何もやらない方がいい。違うか?」
「……」

一言も無い。教授が続ける。

「超音波検査をすれば、腹部の腫れが充実性か嚢胞性(=中身が水)かが分かるからやるんだろうが! 充実性だったら何を考える?」
「悪性腫瘍です」
「だろ! じゃあ、悪性腫瘍を疑ったら次は何をする?」

こんな応用問題、答えられない。ぼくらは教授の顔色を窺いながらいろいろなことを言う。今度はバラバラだ。

「採血をします」
「腹部のX線を撮影します」
「造影CTを撮ります」
「ぼくもCTの前にまず単純腹部X線を撮ります」

高橋先生は「ふーん」と頷くとさらに聞いてくる。