筆者が懸念する「株主還元の圧」
もちろん、これらの要求の中にはうなずける事案が一部にあることも確かです。しかし、すべての企業にその理屈が当てはまるわけではありません。私が強く危惧しているのは、本来であればイノベーション、市場開拓のために投資すべき企業にまで、一律に株主還元のプレッシャーが強くなっているのではないか、という点です。
外国人投資家の多くは日本の上場企業から増配や自己株買いで回収した資金を、再び他の日本企業に投資するのでしょうか。仮に別の他の日本企業に投資するにしても、上場企業の株式を市場(流通市場)で取得するのであれば、それは資金の流れから見れば「再投資」ではありません。市場にすでにある株式を、今の株主から買い取っているだけに過ぎないからです。
増配や自己株買いに回される資金、つまり、株主還元にあてられる資金は、本来であれば企業が持続的に成長し、競争力を維持・強化するための原資です。すなわち、私たちが最も重視する『非財務資産』を充実させるために使われるべき貴重なエネルギーなのです。いまやアクティビストだけでなく、東証等の市場当局までもが、ROEやPBR等の表面的な数値を材料にして、株主還元の強化へのプレッシャーを強めているように感じます。
表面的な「数値改善」がもたらす危機
しかし、「株主還元でもたらされた資金を、投資家側がその後どう使うのか、どこに再投資するのか」という問いが、常にセットで議論されるべきだと考えています。ROEやPBRは、あくまで過去の結果を切り取った数値に過ぎません。その数値を机上でいじって大きくすることが、果たして日本企業の真の価値創造やイノベーションを加速させることになるのか、私たちは今一度、よくよく考えてみるべきです。
企業が事業活動から手にした100億円を、商品、サービスのさらなる改善、新しい価値創造のための設備や研究開発(『非財務資産』)に投じるか。それとも、株主還元として市場に返してしまうのか。動く金額そのものは同じ100億円であったとしても、それが日本経済の未来に与えるインパクトの質は、根本から異なるはずです。こうした本質的な論点を、東証や証券当局はどこまで意識しているのでしょうか。正直なところ私は大きな疑問を抱いています。
このまま表面的な数値改善の同調圧力に流され続ければ、外国人投資家による現在の日本株ブームが去ったとき、日本の上場企業の基礎体力、『非財務資産』はすっかり削ぎ落とされ、ボロボロに損なわれているかもしれない。私たちは今、それほどの強い危機感さえ持っておくべきなのです。

