新規顧客の代わりに失ったもの

しかし、この戦略で新規顧客が得られとしても、将来的にコアなマツダファンとなってくれる可能性の低い客と言わざるを得ない。一方で旧型CX-5、特にディーゼルモデルからの買い替えはほとんどないということだ。

FRレイアウト、直列6気筒エンジンを採用したプレミアム化路線の象徴的モデルであるCX-60/80が日本市場では初期トラブルの影響もありパッとせず、目指すべきブランド戦略が機能不全に陥ってしまっているのも現在の苦しさの一因だ。

CX-60/80も海外市場をメインに開発されており、日本の道路・駐車環境には大きすぎるという問題点を抱えている。プレミアム化、高価格化するということは大型化につながりやすく、それが日本市場のニーズとのミスマッチにつながってしまっているともいえるだろう。

トヨタ、ホンダ、日産などは日本のニーズに合わせた日本市場専用車を販売しており、それらは日本での販売の主力となっている(シエンタ、アクア、ノア、ルーミー、ノート、セレナ、フリード、ステップワゴンなど)。

マツダは国内販売台数が少ない(2025年でホンダの3分の1、日産の2分の1の販売台数)ため日本市場専用車を用意する余裕はなく、北米市場が売上の半分以上を占めるため、アメリカ市場優先の開発とせざるを得ないのだ。

「CX-5」の室内の広さを説明するマツダの山口浩一郎主査
筆者撮影
「CX-5」の室内の広さを説明するマツダの山口浩一郎主査

ブランド戦略として生じた「あるリスク」

今回CX-5でディーゼルエンジンを廃止したのは、コスト的には合理的な判断とはいえるが、マツダのブランド戦略として正しい判断ではなかったのではないかと私は考える。

スカイアクティブ・ディーゼルは他社にないマツダの技術的独自性の象徴であるうえに、日本ではディーゼル車を選ぶ明確なベネフィットがある。

日本は欧州市場とは異なり、メルセデス・ベンツやBMWは現在でも販売の30~40%はディーゼルと言われており、ディーゼル車の需要はそれなりに存在するのだ。

CX-5にディーゼルがあればディーゼルに販売は集中し販売単価は大きく向上したはずだし、マツダファンも納得して購入できたはずだ。プレミアム性を目指すブランドイメージも維持・強化できただろうし、契約料の高い著名人を起用する必要もなかっただろう。

ディーゼルをやめたがゆえに、長期的なブランド戦略全体も曖昧になってしまうリスクを伴う結果となってしまった。

世界販売100万台、国内販売10万台(スズキOEMの軽自動車などを除いた台数)という規模のマツダが生き残るためには、高くても、モデル末期であっても買ってくれる熱狂的なファン層の維持・拡大(維持のほうがより重要)がきわめて重要であると私は信じている。

そのためには他社にはない独自の車作りの思想、独自技術がなければならない。これを失ってしまうとマツダの存在意義自体を失ってしまうことになる。