地域住民にとっては生活基盤の路線バス

とりわけ地方の路線バスは、この問題がより深刻である。人口減少により需要は縮小している一方で、高齢者や学生など、自家用車を利用しにくい地域住民にとっては、日常生活を支える不可欠な移動手段であり続けている。

運賃を引き上げれば利用者の負担が増し、自治体の補助にも影響が及ぶため、価格の変更は容易ではない。その結果、人手不足であっても価格を通じて収入を増やすことが難しく、賃金水準は抑制されやすい。

バスドライバー
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その帰結としてあらわれるのが、人手不足の慢性化と路線の縮小、さらには廃止である。ここで論じたいのはバス路線運営から退出することの是非ではない。

退出や縮小は、人口減少下における合理的な資源配分の結果と捉える見方もあり、需要に応じてサービス供給が縮小していくこと自体を否定するものではない。

バスの運賃を上げれば利用者が減る

ただ、こうした分野に共通するのは、サービスによって生じる便益の範囲に比べて、費用を回収する取引の範囲が限られている点である。

バスが走ることで、高校生は学校に通い、高齢者は病院に行き、人々は商店や飲食店を利用できる。学校や医療機関、地域の経済活動も間接的に支えられ、地域社会の維持そのものにも関わる。

しかし、費用の回収が主として利用者の運賃に依存する場合、価格を引き上げると利用者が減少し、収入を十分に増やすことができない。そのため、人手不足が生じても賃金上昇が難しく、供給の縮小としてあらわれやすい。

人手不足が賃金上昇をもたらさず、サービスの維持そのものを困難にするのは、このような調整経路の制約によるものである。

「物流危機」でもドライバーの賃金は上がらず

他方で、運輸や建設といった分野では、市場競争が存在するにもかかわらず、価格が上がりにくいという別の問題がある。

これらの産業でも、深刻な人手不足が長年続いてきた。近年は、賃金も価格も上昇傾向にあるが、過去を振り返ると、例えば運送業界では、1990年の規制緩和により事業者数が増大し、運賃が低下してきたことに対応するかのようにして、賃金が低下していた。

価格競争の激化によって運賃を引き上げることが困難になるなかで、賃金が事実上の調整弁として用いられてきた。

その後、なり手が不足し、「物流危機」が繰り返し叫ばれてきたにもかかわらず、ドライバーの賃金は人手確保に結びつく水準まで上昇してこなかった。その背景には、運賃を十分に引き上げることができなかったという事情がある。

直感的に考えれば、人手が足りなければ、荷物を運ぶことができなくなる。そうなれば、運送を依頼する側は、輸送が不可欠であれば、より高い運賃を支払わざるを得なくなるはずである。それにもかかわらず、運賃はなぜ上がらないのか。