聞き手が「殺した前提」で尋ねている
今回、話を聞いたのが731部隊の日中戦争における細菌戦を研究し、愛知学院大学文学部准教授を務める広中一成氏だ。『七三一部隊の日中戦争 敵も味方も苦しめた細菌戦』(PHP研究所)などの著書がある広中氏は、15年以上にわたって戦争体験者の聞き取りを続けてきた。
そこで気づいたのは、オーラルヒストリーで起こり得る問題であった。
広中氏がまず指摘するのは、聞き手による誘導だ。
「オーラルヒストリーの証言映像を見ていると、インタビュアーが明らかに誘導していると感じる場面があります。『その時の戦場ではどんな殺し方をしましたか』と、もう殺した前提で聞くんです。『その時の心境はどうでしたか』『日本の戦争遂行についてどう思いましたか』『戦争責任についてどう』と続く。これは少し答えを誘導しているのではないでしょうか。戦争責任を調べたいという目的が先にあって、それに沿った答えを引き出そうとしているのだろうと、ずっと疑問に思っていました」
質問が結論を先取りしていれば、語り手の答えも、その枠組みに沿ったものになりかねない。だからこそ広中氏は、聞き取りの際に答えの誘導を避け、極力質問は少なめにし、まず「言いたいことを言ってもらう」スタイルを貫いてきた。それが15年に及ぶ聞き取りの現場で行き着いた方法だという。
カメラが回った途端、証言が変わるケースも
しかし聞き方を工夫しても、証言の語られ方が変化する可能性は残る。
広中氏はその一例として、戦争体験の証言を映像で記録しているある研究者のケースを挙げる。その研究者によると、カメラや録音機材が回っていない時には普通に証言していた体験者が、収録が始まると、それまでとガラッと異なる語り方を始めたという。
なぜ話が変わったのか。語り手は「今まで誰も聞いてくれなかったから、嬉しくなって」と答えたという。
「聞いてくれる人に喜んでもらえるように、ちょっと多めに言ってしまう。記憶が曖昧なところも、曖昧と言うと申し訳ないから、ちょっと付け加えてしまう。そういうことがまれに起きているようです」
長く聞き流されてきた話に、遠方から来た研究者が真剣に耳を傾ける。そうした状況では、聞き手を意識することで語り方が変わったり、曖昧な細部が補われたりする場合がある。
これは、語り手が意図的にウソをついているという話ではない。証言は、記憶をそのまま取り出したものではなく、聞き手との関係や収録の状況にも影響されながら形づくられる、ということである。

