“本物の富裕層”はどこへ向かったのか

この過酷なルール変更に気づかず、「俺の服や時計は一生モノだ」と古い美意識にすがりつくミドル世代は、ブランドのメインターゲットから静かに、そして完全に外されていく。

一方で、新しいゲームに乗せられた若き富裕層たちは、ブランドの養分となり、次々と現れる「巨大なロゴ」に莫大な資金を投じ続けている。彼らにとって服は、スマートフォンの画面越しに自らの財力を誇示し、SNSの「いいね」を集めるための視覚的なノイズ(記号)に過ぎない。

では、本物の美意識を持ち、このグロテスクな大量消費のサイクルに組み込まれることを拒んだ「真の一流」の富裕層やオールドマネー(代々の資産家)たちは、一体どこへ行ってしまったのだろうか。

彼らは、SNSバズ至上主義の使い捨てビジネスや、巨大なロゴをひけらかす成金趣味に違和感と強烈な嫌悪感を抱き、現行の派手な新作を買うのをピタリとやめた。彼らが逃避先として選んだのが「クワイエット・ラグジュアリー(静かなる贅沢)」と呼ばれる領域である。

ユニクロに見えて数十万円

クワイエット・ラグジュアリーとは、ブランドロゴが一切入っていない、極めて上質でミニマルな無地の服を指す。イタリアの最高峰ロロ・ピアーナのビキューナ(希少動物の毛)を用いたニットや、ブルネロ・クチネリの柔らかなテーラードジャケット、アメリカのザ・ロウが展開する無駄を削ぎ落とした無地のコートなどがその筆頭である。

イタリア、ミラノのロロ・ピアーナの店舗
写真=iStock.com/pcruciatti
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一見するとどこのブランドかわからないほどシンプルだが、素材の希少性と仕立ての技術は最高峰であり、価格は数十万円から、時に数百万円と目を見張るほど高額だ。

わかりやすい例で言えば、マーク・ザッカーバーグやジェフ・ベゾスといった世界のトップIT創業者たちが近年、公の場で着ている一見「普通の無地のTシャツやポロシャツ」がそれにあたる。ユニクロのように見えて、実はイタリアの最高級ブランドにカスタムオーダーした極上の素材であり、1着数万円~数十万円するという類のものだ。

また、ダニエル・クレイグやブラッド・ピットといった大人の色気を持つハリウッドスターたちも、プライベートや空港での移動時などにおいて、派手なブランドロゴを一切排除し、最高級のカシミヤニットや、完璧に計算されたシルエットのジャケットをさらりと着こなしている。