「エアコンがない国」を熱波が襲った結果
ただ、ヒートフレーションのマイナス面は深刻だ。欧州の状況を見ると、強烈な猛暑の影響は、人々の生活面や企業の活動などにも深刻な影響を与えている。わが国にとっても他人事ではない。
7月22日、フランス公衆衛生局は、6月17日から7月2日までの間、熱波などによって亡くなった人の数が、平年を5764人上回ったとの暫定推計を発表した。独仏などを加えた欧州6カ国だと、1万9千人もの人が熱波によって亡くなったようだ。英国では、熱波の影響によって、MRIが停止するなど医療現場にも影響が及んだ。
その要因の一つとして、欧州の生活環境がある。従来の気象条件を念頭に、欧州では家庭にエアコンを置く発想が少なかったという。また、電力料金などエネルギーコストの上昇で、ヒートフレーションの打撃が拡大したとみられる。
エアコンの購入負担に加え、電気代値上がりの影響は大きいようだ。欧州環境庁などの調査によると、所得下位層の約3分の2が、「夏場に自宅を涼しく保つゆとりがない」と答えた。
ウクライナ戦争による天然ガスの供給減少、AIデータセンター向けの電力需要急増、イラン戦争によるエネルギー資源価格の上昇、輸送コストの高まりなどの影響が効いている。欧州では再エネや天然ガス由来の電力価格が上昇した。河川水温の上昇や渇水で原子力や水力発電の供給量も細っている。その結果、ヒートフレーションは価格だけでなく、人命にまで影響を及ぼし始めた。
ヨーロッパ、アメリカの物流も止める
物流業界にも深刻な影響がある。7月、ライン川(ドイツ)の水位は、通航に影響が出る40センチのラインにまで低下した。ドナウ川(ルーマニア)は過去30年で最低だという。
米国でも影響が出ている。アメリカの内陸水運の大動脈と呼ばれる、ミシシッピ川では乾燥による水位低下で航路制限が発生し、牽引隻数が引き下げられたようだ。パナマ運河でも水位は低下しているようだ。
欧州中央銀行(ECB)は、ヒートフレーションを憂慮し始めた。ECBの分析によると、農作物への打撃だけで、中期的な物価変動の約3割をヒートフレーションが占める恐れがある。個人消費の減少、輸送コストの増加などで、企業の収益は悪化し信用力の低下リスクは上昇傾向と指摘した。

