意図的に混乱を招く事前通告
約2年前に中国人民解放軍ロケット軍が海南島から発射したDF(東風)31AGはJL-2と同系統の地上発射型ミサイルで、約7400マイル(約1万1900キロ)飛行した。
公開されている船舶追跡データによると、中国は発射前に弾道ミサイル追跡艦3隻を南太平洋へ展開していた。テレメトリー(飛行データ)を計測するためだ。
日本政府によると、中国の海事当局は6日、日本の海上保安庁に対し、宇宙ごみが日本のEEZ内に落下する可能性があると通知していた。この時点では、ミサイル発射実験が予定されていることは明らかではなかった。
高市首相事務所によると、在中国日本大使館が中国国防省から発射の通知を受けたのは現地時間7日午前10時30分で、発射予定時刻の約90分前だった。
さらに、フィリピン東方沖にもロケット残骸の落下予想海域が設定されていたため、実際の発射地点を特定しにくくしていた。
元航空自衛官の園田弘樹は、防衛専門サイト「セキュリジェンス」に掲載した分析で、公式な通知のタイミングや内容の違いは意図的だった可能性があると指摘した。
今回の大陸間射程のミサイル発射実験は、数週間から数カ月前には計画されていた可能性が高いとみられる。しかし、この発射がオーストラリアとフィジーの歴史的な防衛協定の締結と同じタイミングで行われたことは注目を集めている。
オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相は、フィジーの首都スバで開いた共同記者会見で、新たな防衛協定は、いずれか一方が攻撃を受けた場合に「相互防衛義務」を果たすことを両国に義務付けるものだと説明した。
従来は西側諸国との結び付きが強かった太平洋島嶼国との間で、中国が積極的に安全保障や警察分野の協力協定を進める中で締結された。
真の標的は米国の核兵器
毛寧外務省報道官は、中国は太平洋島嶼国との協力において「相互尊重、平等、互恵、開放、包摂」の原則を堅持しており、「地政学的な対立に加わることも、自国の政治的利益を追求することもない」と述べた。
また、オーストラリアとフィジーの協定について、「第三国を標的にしたり、第三国の利益を損なったりすることは避けるべきだ」と語った。
だが、ローウィー研究所のロゲビーンは、今回の中国のミサイル実験について、「タイミングはともかく、南太平洋やオーストラリアとはほとんど関係がない」との見方を示す。
「核兵器は他の核保有国に対する抑止を目的としており、今回の場合は主として米国を念頭に置いたものだ」とロゲビーンは述べた。
米国防総省によると、中国はロシア、米国に次ぐ世界第3位の核戦力を保有しており、核弾頭数は現在の約600発から2030年までに1000発へ増加する見通しだ。
中国は、自国の核戦力が米国やロシアに大きく及ばない現状では、米ロの軍備管理協議に加わる考えはないとしている。
ピゴット米国務省報道官は、「中国に対し、実質的な軍備管理協議に応じるとともに、国連安全保障理事会の常任理事国の他の加盟国と同様に、大陸間弾道ミサイルや宇宙打ち上げについて定期的な事前通報の枠組みに参加するよう引き続き求める」と述べた。
専門家の間では、今回の実験は米国に対する核抑止力を維持するための通常のSLBM発射実験との見方が主流だ。だがそうであれば、南太平洋の非核地帯を終点とする必要があったのか、あるいは他の海域や発射条件でも試験は可能だったのではないかとの指摘もある。そのため、今回の実験は軍事技術上の試験であると同時に、中国が太平洋地域で影響力を誇示する政治的なシグナルだったとの見方も根強い。
非核地帯での実験
南太平洋の非核地帯は、1986年に締結されたラロトンガ条約によって設けられた。中国は2年後、ラロトンガ条約の議定書を批准し、条約締約国や条約対象地域に対して核兵器を使用・威嚇しないことを約束するとともに、条約の地理的範囲内で核爆発実験を実施しないことも定めた。
模擬弾頭を搭載した中国のミサイルは、条約の文言には厳密には違反しない。しかし専門家は、核搭載可能な運搬手段の実験は、条約が掲げる非軍事化の理念に反すると指摘している。
これまで中国が南太平洋で実施したミサイル実験で、非核地帯内に着弾したケースは今回を含め2回だけだ。
一方、米軍はカリフォルニア州のバンデンバーグ宇宙軍基地から、核弾頭を搭載していないミニットマンIII大陸間弾道ミサイル(ICBM)を、非核地帯の外にあるマーシャル諸島クェゼリン環礁の試験場へ向けて定期的に発射している。また、米国は通常、発射の数日前に事前通知を行っている。
マーシャル諸島は昨年春にラロトンガ条約へ署名したものの、批准はまだ完了していない。批准されれば、南太平洋非核地帯の適用範囲はさらに拡大することになる。
同国は、米国と自由連合盟約(COFA)を結ぶ太平洋島嶼国3カ国の一つで、この協定に基づき米国政府が財政支援を行い、安全保障は米軍が担っている。


