僕が37年前に諏訪中央病院に赴任したとき、そこは累積赤字4億円で潰れる寸前でした。地元の患者さんも隣町の大病院に行ってしまうし医者も4人だけ。それを立て直すとき、われわれを動かしたのは希望でした。

医療の質では東京の大学病院に勝てないが、救急でも日曜でも絶対断らず全力で診る、患者さんに丁寧に優しく接する……そういう点では絶対負けないという医療なら、やれるはずじゃないか。そういうメッセージを出し、希望を語ることが、職員たちの心を揺さぶり、次第に変わることができました。

東京の病院がやれないようなことをやろうと、日本で初めてデイケアを始め、当時まだ在宅医療・訪問看護という制度がないのに訪問看護も始めました。薬を出すことではなく、生活指導に力点を置きました。その結果、不健康な人が多かった地域が、いまや日本有数の長寿で、しかも医療費がかからない地域に変貌したのです。

この変化のプロセスに、われわれはとても幸せを感じてきました。希望を持ち行動する。そのプロセスにこそ幸福があるのだと実感した例です。

アランは行動することの大切さについて『幸福論』のさまざまな個所で触れています。希望という強い思いも、それを行動に移さないと幸福に至りません。

「どっちにころんでもいいという見物人の態度を決め込んで、ただドアを開いて幸福が入れるようにしているだけでは、入ってくるのは悲しみである」と言っています。

さらに、「何もしない人間はなんだって好きになれないのだ」「音楽を自分で演奏するよりも聴く方が好きな者がいるだろうか」「だれだって強いられた仕事は好きではない」が、「好きでやっている仕事は楽しみであり、もっと正確に言えば、幸福である」「戦いが自分の意志で行なわれるならば、困難な勝利ほど楽しいものはない」とも記しています。

与えられるのを待っているのではなく、自分から積極的に行動すること、それが幸福への道だと語っているのです。

意志の力で希望を持ち、それを実現するために行動する。そのなかに幸福があるというのです。

※出典:『幸福論』(神谷幹夫訳、岩波文庫)

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(構成=小山唯史 写真=PPS)