スズメバチに刺され、激痛に耐えながら
這うようにパトカーに辿り着くと、のんきそうな警官と、猟友会のオジサンが顔を出した。
「通報された方ですか?」
「そ、そうです……」
「クマはどこへ行きました?」
「わ、わかりません……」
そこでようやく苦痛にうめく筆者の顔に気づいたのか、
「どうしたんですか?」
「いやあの……スズメバチに刺されまして」
しかし警察にとってはスズメバチなどどうでもよいらしく、話題はすぐにクマの話に戻る。
「実は他にも通報がありましてね。さすがに拳銃じゃ効きませんからねえ」
などと言いながら、懐中電灯をアチコチに向ける。
「あの、これからどうしたら……」
「家から出ないで大人しくしててください」
「はあ」
再びスズメバチをかいくぐって自宅へ戻る。
その日は激痛のため、早々に寝ることにした。
「やばい、このままだと死んでしまうかも…」
翌朝……。
多くのスズメバチは姿を消していて、2、3匹が名残惜しそうに飛び回っているだけであった。ふくらはぎはパンパンに腫れていたが、痛みはだいぶ引いていたので、蜂の巣の片付けを始めた。しかし動き始めると頭がフラフラしてきて、とても立っていられない。寝床に這い戻り、1時間ほど横になる。症状はひどくなる一方である。
やばい。このままだと死んでしまうかも……。
死ぬ思いで体を起こし、前後も覚束ない状態でなんとか病院に向かった。
「アナフィラキシーガイドライン」(日本アレルギー学会)によれば、何らかのアレルギーを持っている人の割合は、およそ22人に1人(4.5%)で、このうちアナフィラキシーを発症する人は200人に1人(0.5%)、さらに死亡にまで至るケースは2000万人に1人(0.000005%)程度とのことである(死者数は毎年50人~70人。このうちハチの刺傷によるものは20人前後)。
筆者の場合、幸い「致命的な人」ではなかったものの、「200人に1人」のレアケースに該当してしまったわけであった。
数日後、隣の集落でツキノワグマが1頭捕殺されたが、それが同一のクマだったのかどうかは不明である。
それにしても何も悪いことをしていない筆者が、なぜこんな目に遭わなければならないのか。

