これは事件なのか、事故なのか
どうする。どうする……そうだ。誰かに報せないと。
でも誰に? 役場? 消防?
そこで筆者は、生まれて初めて110番というものをかけてみた。
きっちり2コール目で、男性の冷静沈着な声が響いた。
「警察です。事件ですか、事故ですか?」
……事件⁉ 事故⁉
思ってもみない質問に、しばし悩む。
とりあえず刑事事件ではないか。強盗とか殺人ではないし。
では事故なのか? しかしなにか起こったわけでもない……。
「事故……ですかねえ」
「事故ですね。事件ではないんですね?」
畳みかけるような質問に、さらに頭が混乱する。
「と、とにかくクマが出たんですよ!」
「クマはどこにいるんですか?」
「わからないですよ」
「わからないって、クマがいるんですよね?」
「だから! 家の中にいるから、外の様子なんてわからないの!」
「クマはどっちに逃げましたか?」
「それもわからんっつーの!」
「あ、場所はわかりました。30分ほどでそちらに向かいますから」
電話は一方的に切れた。
どうやら通話を引き延ばして位置情報を解析していたらしい。
クマが狙っていた「獲物」とは
それからまんじりともせずに警察の到来を待った。しかしやはり様子が気になる。ドアを細めに開けて外を窺ってみた。ウッドデッキはいつも通りで、照明もつけっぱなしである。しかしよく見ると、ものすごい数のスズメバチが飛び回っているではないか。
そこでようやく理解できた。
実はウッドデッキの天井に、キイロスズメバチが巣を作っていたのである。
とはいっても高さ3メートル以上もあり、人を攻撃してくることもなかったのでホッタラカシにしていた(スズメバチは、女王バチ以外はすべて、ひと夏で死んでしまい、空っぽの巣だけが残る)。
クマが狙ったのは、おそらくハチの子だったのだろう。
バットを手に、おそるおそる外に出てみる。なんと、バレーボール大ほどに育っていた巣が叩き落とされ、粉々になっているではないか。その周囲を、怒りに燃えるスズメバチが100匹近くも、ブンブン飛び回っている。
そりゃあそうだろうなあ。かわいそうに……と、そこで赤色灯が通過するのが見えた。しかし道路に出るには、スズメバチの大群の中をかいくぐっていかなければならない。姿勢を低くして、なるべく刺激しないように通過する。
次の瞬間、左ふくらはぎに激痛が走った。激痛なんてものではない。シビレが全身を突き抜ける感じである。

