『般若心経』は特殊

ところで、なぜ『般若心経』を選んだのか。

「『般若心経』は特殊です。他のお経では明確な功徳やご利益、災を消しますというメッセージがあったりするでしょう。でも『般若心経』にはそれがありません。上から押し付けてこないところが、私はとても好きです。『この世には何もない、何にも存在しないのだから悩む理由はない』と、あらゆるものを解き放つのです。そうして聞く人の心に直接、生き方を問いかけてくる。だからこそ宗派を超えて、幅広く読まれるポピュラーなお経なのでしょう。法事などでもだいたい一番最初に『般若心経』を唱えます」

私はYouTubeで薬師寺さんの『般若心経』を聴いた時、正直、「生き方を問われている」ようには受け取れなかった。ただ、繰り返し聞きたくなるような心地良さを感じた。薬師寺さんは「なんでも自由に感じてくださっていい」と述べつつ、「『般若心経』の文字に一文字一文字向き合っていくと、心悩むことが自動的にリセットされるはず」と言う。これを読むあなたも、ぜひ一度聴いてみてほしい。

新しい形の住職

最後に、「寺を継ぐ」ことに今はどのような思いでいるのだろうか。

「住職というのは言葉通り、“住みながら職を全う”することで、檀家(ある寺院を経済的に支える家)制度があり、それによってお寺を守っていくという文化が江戸時代からありました。でも私の世代交代のタイミングでは、それにとらわれず、新しい形の住職ができればいいなと考えています」

自ら出向いて歌うように、住職になったらいろんな場所で「心を整えるきっかけ」が作れればいい――『般若心経』を歌いながら多くの人とつながってきた僧侶・薬師寺さんらしい答えだと思った。

薬師寺寛邦さん
撮影=今井一詞
どんな質問にも和やかにわかりやすく答えてくれた。YouTubeチャンネル登録者数100万人超え。「近頃はコメント欄にポルトガル語やスペイン語など、パッと見てもわからない言語の方も書き込んでくださり、世界中のいろんな国の方が聞いてくださっているのを感じます」
薬師寺寛邦(やくしじ・かんほう)
1979年生まれ。僧侶、音楽家(薬師寺寛邦 キッサコ)。愛媛県今治市臨済宗妙心寺派海禅寺の副住職。仏教の教えを懐かしいポップスのメロディーとハーモニーで伝えている。音楽と仏教を重ね合わせ、般若心経に声を重ねてアレンジしたアルバムを多数リリース。
【YouTubeチャンネル】https://www.youtube.com/channel/UCIzrjVw3rZfaoorzW75JOCA
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