擬似体験が「未来の選択肢」を増やす
その一方、複数の解釈が許される環境では、人は試行錯誤しやすくなり、柔軟な思考が育ちます。
ここで、物語の力が発揮されます。
昔ばなしの効用の一つは、経験しなくてもわかることを増やせることです。
人は、一回しか人生を生きられず、自分が体験した狭い範囲でしか物事を知ることができません。しかし物語に触れることで人生の経験値を増やせます。
貧しい家に生まれる子もいる。
裕福な家に生まれる子もいる。
勇敢な子もいれば、怖がりな子もいる。
失敗する子もいれば、運よく進む子もいる。
現実では、自分の環境や選択の範囲でしか経験できないことが、物語を通すと疑似的に手に入るようになります。
物語での疑似体験は、実際に体験することの完全な代わりにはなりません。
でも、子どもの頭の中に「新しい地図」をつくります。
「こういう世界もある」
「こういう人もいる」
「こうならなくても、生きていける」
この新しい地図が、未来の選択肢を増やします。
「正解が一つじゃない世界」へ連れ出す
今、教育界で問題として語られているのが「体験格差」です。
旅行、スポーツ、習い事、自然体験、海外経験。
これらには、それなりの費用がかかります。
ですから家庭の経済力が、子どもの体験の幅を左右してしまいます。
SNS時代は、体験格差が可視化されます。すると親は焦ります。
「うちの子にもやらせなきゃ」と。
でも、そんなときこそ昔ばなしを思い出してほしいのです。
体験は大事。でも、全部を体験させるのはとうてい無理です。
だからこそ、家庭に物語を置く意味があります。
昔ばなしは、さまざまな時代と場所を、家の中に連れてきます。
何百年も眠る人がいる。
海の底へ行く人がいる。
異界と此し岸がんを行き来する人がいる。
「そんなの嘘じゃないか」と言うことは簡単です。
でも、嘘っぱちな話だからこそ、子どもの心に自由が残ります。
正解が一つに縛られない。受け取り方が一つに決まらない。自由しかありません。
これが、今の時代にとても効くのです。
正解探しに疲れたら、昔ばなしに耳を傾けてください。
昔ばなしは、家の中に「正解が一つじゃない世界」をそっと連れてきてくれます。


