コンプライアンスと同様に大事なもの

つまりフジテレビはキャスティング・企画段階、トラブルが発生した撮影初期段階、佐藤さんが降板したいと言った段階、放送終了後の文春報道時、「踊る――」の降板決定時と、少なくとも5回、選択を間違えてしまったのではないでしょうか。

フジテレビには、「(中居さんの事件以後)コンプライアンス研修も徹底した、今回は早めに弁護士も入れた、手続き通りにやった。それなのになぜこれほど批判されるのか」と感じている人が少なからずいるかもしれません。あえて厳しい言い方をしますが、もしそう思っているなら、それは考え違いです。

法令遵守、教科書通りの対応。それはできていた。しかし、テレビ局は一般企業とは違います。商売の相手はすべて生身の人間、それもとびきり個性の強い人間たちです。現場の空気を読み、相手の感情を汲み、状況を俯瞰して対話でトラブルを解決していく。マニュアルなどにはまとめられず、先輩から後輩へ口伝えで受け継ぐしかない「大事なもの」が、この業界にはあるのです。

お台場のフジテレビ社屋、2025年
撮影=プレジデントオンライン編集部
お台場のフジテレビ社屋、2025年

腹を割って対話することが大切

今回の件は、業界のど真ん中にいるはずのフジテレビがそれを分かっていなかった、という盲点をさらけ出しました。清水社長の下で生まれ変わろうと一歩一歩改革を進めてきたことは、私も評価してきただけに、その努力が台無しになってしまったことが本当に悔やまれます。

テレビ局のプロデューサーやディレクターは、突き詰めればサラリーマンです。大学を出て入社した若手が、百戦錬磨のタレントやマネジメントサイドといきなり互角に渡り合えるはずがない。だからこそ、時に厳しいことも言い合い、泣かされながらも信頼を積み上げる、人間関係のマネジメントが不可欠なのです。佐藤さんに対して「お気持ちは分かる。でも今回は難しい。その代わり次は必ず」。そう腹を割って言える人間が、あの現場にいたのかどうか。おそらく、いなかったのでしょう。

事実関係の全容はこれから明らかになります。私たちはその報告を冷静に待つべきです。ただ一つ、今の時点で確かなことがある。この問題の中心には、フジテレビのいまだ変わらない体質がある、ということです。

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