昔ばなしが「子どもの想像力」を育む理由
失われた生み出す力を取り戻すために、昔ばなしの読み聞かせは最高のリハビリになります。
なぜなら昔ばなしには、「顔がない」からです。
絵本やアニメには絵がありますが、元々の昔ばなしには「声」しかありません。
そして昔ばなしの語り口は、徹底して細かい描写を省きます。
むかしむかし、あるところに、おじいさんがいました。
このおじいさんが、太っているのか痩せているのか、白髪なのかハゲているのか、着ている服は何色か。昔ばなしはいっさい説明しません。
スイスの昔ばなし研究者マックス・リュティは、これを昔ばなしの「抽象性」と呼び、背景や心理描写を語らないことで、物語の骨格だけがくっきり浮かび上がる、と分析しました。
説明がないからこそ、子どもは耳から入った「おじいさん」という言葉を、瞬時に自分の頭の中で映像化しなければなりません。
僕の知っているおじいちゃんかな? いや、もっとヒゲが長いかな?
声を聞いた瞬間、子どもの脳内ではものすごいスピードでフルCGの映画制作が始まります。監督も、美術も、キャスティングも、すべて子ども自身です。
ゼロから自分だけの映像を立ち上げる
「鬼が来た!」と言われたら、自分にとって一番怖い鬼を想像する。
「美しいお姫様」と言われたら、自分が思う美しい人を思い浮かべる。
この「何もないところから、自分だけの映像を立ち上げる」トレーニングこそが、AIには真似できない創造力の源泉になります。
子どもが昔ばなしの世界を想像できるのは、大人とは違う理由からです。
大人は知識や理屈で情景を補いますが、子どもにはそれがない。
でも、その代わりに子どもが持っているのが、圧倒的な感情の強さや感性の鋭さ。
主人公と自分をピタリと重ね合わせ、ピンチのときのハラハラ、助けが来たときの喜びといった感情を使って、物語に没入できるのです。
知識や理屈がないからこそ、感性がダイレクトに動く。
昔ばなしが持つ余白と、子どもの内側から湧き上がる感情のエネルギーが出会うとき、創造力が引き出され、育まれます。

