私は常に、投資で成功したければ哲学や歴史を学ぶべきだといってきました。いつの時代も根本的な部分で世界には何も新しいことなど起こっていません。過去に成功しえなかった政策というものは、時をおいてもうまくいった試しがないのです。大昔から、経済的に行き詰まると政治家たちはお金を刷るという手段に走ってきました。けれど歴史を紐解くと、この手の政策が長期的に、いや中期的にさえよい結果をもたらしたことはありません。自国通貨の価値を下げるということは、結局、不健全なインフレを引き起こし、自国民を苦しめることになるのです。
今、日本だけでなく、米国や欧州など世界の中央銀行が財政出動でお金を刷り続けて市場にばらまき、自国通貨を安くする競争に入っています。複数の国が同時にこういった政策をとることは歴史上初めてのことだと思いますが、ここで予想される未来は、過去よりさらに深刻です。一国で問題が起きると全世界に飛び火し、一気にどうにもならない事態に陥る可能性がある。複数の国で債務が膨らみインフレが起こり、人々は紙幣なんてもういらないというかもしれません。そうなれば世界は大混乱に陥るでしょう。
私はリーマンショック後、プレジデント誌において遠からず世界で通貨危機が起こると予言しました(「すべては、欧米からアジアへ動く」(http://president.jp/articles/-/3240))。実際、中東ではすでに起こっています。彼の地で次々に「アラブの春」と呼ばれる革命が起こった真の理由は、人々が政府の思想に反対したからではなく、自国通貨が弱くなってインフレが起こり、日用品が高騰して生活が苦しくなったからなのです。こういった混乱は通貨安競争に走る先進国でもいずれ起こる可能性があります。いや、日本ではすでに起こっているといえる。円は実際、半年で3割ほども下落しています。世界で2番目か3番目に重要なこの通貨が、ですよ。これほどまでに急激な円安はドイツや韓国など諸外国の輸出業にも影響を与え、どの国にとってもいいことはない。
日本企業も原材料の多くを海外から輸入しているのですから、ビジネスのコストもはね上がります。10年後、15年後、アベノミクスが続いたら、もっとひどい状態が予想される。