陸上輸送コストがほぼゼロという奇跡
日本の主要な工場は、ほとんどが海のすぐそば、「岸壁」に建っています。地球の裏側(ブラジルやオーストラリア)から運ばれてきた鉄鉱石や石炭は、巨大なタンカーで日本の港に着き、そのままベルトコンベアで製鉄所の高炉へと放り込まれます。
そして、出来上がった自動車や鉄鋼製品は、工場の裏手からすぐに船に載せられ、アメリカやヨーロッパへ輸出されていきます。
つまり、日本国内での「陸上輸送コスト」がほぼゼロなのです。
もしこれが、海を持たない内陸国や、海岸線が単調で港が作れない国だったらどうでしょうか。国境で荷物を積み替え、鉄道やトラックで何百キロも内陸へ運ばなければなりません。その輸送コストだけで、製品価格は跳ね上がり、国際競争力を失ってしまいます。
日本が得意とする「加工貿易(原材料を輸入し、製品にして輸出する)」というビジネスモデルは、日本人のアイデアというよりは、「資源はないが、港はある」という地理的条件が強制した生存戦略でした。
太平洋という「巨大な高速道路」
さらに、日本の位置も絶妙でした。日本の東側には、世界最大の消費地である「アメリカ」が広がっています。
太平洋は、かつては隔絶の壁でしたが、航海技術が発達した現代においては、巨大な「高速道路」です。日本は、この太平洋ハイウェイの入り口(インターチェンジ)に位置しています。
もし日本が、ユーラシア大陸の奥地にあったら、戦後のアメリカ市場へのアクセスは困難であり、高度経済成長は起きなかったでしょう。また、西側には中国や東南アジアという巨大な成長市場があります。
「太平洋」と「ユーラシア大陸」の結節点に位置し、無数の良港を持つ島国。この地理的幸運があったからこそ、日本は「資源を持たざる国」でありながら、「資源を自由に操る国」として振る舞うことができたのです。
私たちが普段何気なく眺めている工業地帯の風景――海沿いに並ぶ煙突やクレーン――は、日本が地理的宿命に打ち勝つために作り上げた、一種の要塞なのです。

