食らいついて質問できるか

努力ということでは、公安の仕事についての勉強も怠らなかった。

公安捜査員になるには、研修期間を経て、所轄署や機動隊で内示を待つことになる。

公安の仕事のほとんどは、本庁(警視庁)の本部(公安部)から各所轄署に指示が下るかたちで行なわれる。

当時警察署で公安捜査員としてのキャリアをスタートさせた私は、指示の中身や捜査の過程で生じた疑問を、本部の担当者に積極的に質問した。

時に、「そんなわかりきったことをいちいち質問してくるな」などと注意されることもあったので、しっかり勉強して質問の内容を事前に吟味した。

それが功を奏したのかどうかは何ともいえないが、私は公安のセクションの中でも自分の希望する仕事に就くことができた。

後に私も本部に移り、当時の自分と逆の立場になったからわかるのだが、食らいついて質問してくる者に対し、「煩わしいな」と思う一方で、応援してやりたくなる気持ちも正直湧いてくるものである。当時の本部の担当者も、私に対してそういう心情を抱いたのかもしれない。

「警察官より高給」は大間違い

公安には、警察学校のエリート集団(私がそうだと言っているわけではない)や、特殊な才能に秀でた人材が集められているので、普通の警察官より高給をもらっているだろうと思われるかもしれないが、決してそんなことはない。

あくまで国(または都道府県)から給料をいただいている公務員の身であるから、当然他の警察官と変わりはない。むしろ、日々の過酷な業務からすれば、割に合わないと感じる公安捜査員もいるかもしれない。

結局のところ、報酬よりも「使命感」にこそ価値を見出せる人間でないと務まらない仕事なのだと思う。

コインの上に「公務員」と書かれた木のブロック
写真=iStock.com/Seiya Tabuchi
※写真はイメージです

だから、休みの日であっても、決して気が休まることはない。携帯を手放すことなどあり得ない。寝る時もいつも枕元に置いていて、連絡があればすぐに出られるようにしていた。

束の間の自由があるとすれば、私の場合は、せいぜい家族と買い物に出かける時ぐらいだった。

それでも、私の「プライベート」はとても充実していた。家族仲もとても円満だった。

これだけハードな職務を担っていて、なぜプライベートが円満でいられたか?

そこには、私なりの秘訣があった。

たとえば、私はゴルフはやらないと決めていた。

ゴルフをすると、休みの日がそれで埋まってしまうからだ。

休日は家族のために体を空けておく。基本的にすべて家族に捧げるようにしていた。

勝丸円覚『警視庁公安部外事課』(光文社新書)
勝丸円覚『警視庁公安部外事課』(光文社新書)

買い物に行く時などは、それこそ「妻の奴隷」になるぐらいの覚悟が必要だ。その甲斐もあってか、おかげさまで夫婦生活は20年を超えた。家族も健康で、いたって円満な関係を築けていると自負している。

逆に考えると、そもそも家族仲が円満でない人は公安に呼ばれないと思う。

問題が起こりそうなリスクは最初から排除しておきたいからだ。

「そんな調子で、ストレスは溜まらないの?」とか「どうやって発散してるの?」などと聞かれたりもしたが、元々私は忙しいことや家族に奉仕することを「苦痛」と感じないタイプなので、当然「ストレス」も溜まることはなかった。家族の喜ぶ姿を思い浮かべれば、ストレスなんて感じるはずもない。